ハンガリー総選挙:国民は希望より不安で動かされる

「勝利宣言」をするオルバン首相(2018年4月8日、フィデスの公式サイトから)

ハンガリーで8日、国民議会(一院制、定数199、任期4年)の選挙の投開票が行われた。中央選挙管理委員会が9日午前5時、公表した結果(集計99.8%段階)によると、ヴィクトル・オルバン首相が率いる中道右派連合「フィデス・ハンガリー市民同盟」が得票率約48.5%を獲得し、第1党を維持した。これを受け、オルバン首相は2010年と14年に続き3期連続、続投することが濃厚となった。同首相は1998年にも政権を担当しているから、通算4期目の長期政権となる。

第2党は民族派政党「ヨッビク」が得票率19.5%、それを追って社会党(MSZP)が12.3%と続いた。投票率は前回2014年の61.2%を大きく超えて、約70%だった。

フィデスと連立パートナー「キリスト教民主国民党」(KDNP)を加えると議会199議席中、憲法改正が可能となる3分の2の議席を超える134議席を獲得する見通しだ。2014年の時はフィデスは得票率約44%で133議席を得た。

オルバン首相は同日夜、支持者の前に現れ、「母国を守るための可能性を得た」と勝利宣言した。

オルバン首相は選挙戦では難民対策に絞り、「西欧社会は堕落した。難民・移民の殺到で欧州の伝統的なキリスト教社会に暗雲が漂い、危機に瀕しているが、欧州社会はそれに気が付いていない。欧州の都市では近い将来イスラム系住民が半数を占めていくだろう」と有権者(約800万人)に訴えた。

同時に、ハンガリー出身の世界的投資家ジョージ・ソロス氏が1991年、故郷のブタペストに創設した中央ヨーロッパ大学(CEU)など外国資本で創設された非政府機関(NGO)、教育機関への監視強化を訴えるなど、選挙戦では一貫として“ハンガリー・ファースト”をアピールした。

一方、野党は「オルバン首相はわが国の民主主義を破壊する」と主張、フィデス独裁を破るために腐心したが、野党内の路線の対立などがあって結束できず、オルバン首相の独走を今回も許してしまった。

なお、ヨッビクのヴォナ・ガーボル党首は8日夜、オルバン政権打倒という選挙前の目標が達成できなかったとして辞任を表明した。

ハンガリーの国民経済は順調で今年も経済成長率4%が予想され、欧州連合(EU)加盟国の平均値を大きく上回り、失業率も4%と低下。オルバン首相は順調に成長する国民経済の追い風を受け、オルバン政権下の腐敗問題は大きな障害とはならなかった。

ちなみに、フィデスの勝利に対し、ブリュッセルのEU本部では「今後も、オルバン政権と付き合っていかなければならないのか」といった悲観的な声が聞かれる。EUはフィデス政権下の司法改革、メディア改革を「民主主義の危機」として批判、難民割り当てを拒否するオルバン政権に対しては不満を表明してきた。

オーストリア日刊紙プレッセ(4月7日付)の社説はハンガリーの総選挙の動向について「国民は希望より不安によって動かされるものだ」と述べていたが、選挙結果はそのことを図らずも実証した。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年4月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。