昨年末に中東のヨルダンでアブドラ2世国王の異母兄弟アリーとファイサルの二人と、従弟のタラルの3人の王子が政権の転覆を計ろうとしてクーデターを計画していたのが発覚した事件があった。この計画の背後にいたとされているのはサウジのサルマン皇太子とアラブ首長国連邦のザイード皇太子であったという。
ヨルダン政府は表向きこのクーデター遂行の企てがあったということは否定している。
勿論、この3人は職務を解任させられたが、アリーは国王の親衛隊、ファイサルは空軍、タラルはエリート特殊部隊にそれぞれ属していたという。3人とも名誉称号を与えられて退役となった。それぞれ自宅蟄居ということになっているという。
この3人の職務解任について、ヨルダン王宮の公式発表は12万の兵士から成る軍隊の再編と費用削減の為のプランの中で決められた退役であるとされた。それ以上の憶測などによる報道メディアによる情報の流布はアブドラ国王自らが禁止したという。
サウジではサルマン皇太子が王位継承者となる前からアラブ首長国連邦のザイード皇太子は彼に肩入れしてサウジの影響力を利用しようとしている。サルマン皇太子が正式に王位継承者として承認されて以来、ザイード皇太子はサルマン皇太子への影響力をより一層強める行動に出ていた。特に、米国でトランプ大統領が登場するに及んで、ザイードはトランプ政権の忠実な下僕であるかのように、サウジとイスラエルの関係強化により一層努めている。
そして、サウジの中東における支配力をより強固なものにしよとして、サウジに常に背いている反逆児カタールの現政権を倒壊させて、サウジに忠実な人物を君主に任命しようとした。しかし、結果は逆にカタールをしてトルコそしてイランとの関係を強化させるという方向に導いてしまった。
トランプ大統領はエルサレムをイスラエルの首都として認定することについて、サウジに事前に了解を得た後にそれを公式に発表した。
エルサレムをイスラエルの首都と認定したことは、ヨルダンを内心非常に憤慨させたという。ヨルダンには多くのパレスチナ人が住んでいるからである。しかも、エルサレムという聖地を守護する役目を歴史的にも背負っているハシーム家のアブドラ国王にとって、米国のこの決定はヨルダンのエルサレムにおける神聖なる任務を侮辱する行為とも受け取れた。
ここに至って、これまで米国に忠誠を尽くして来たヨルダンは米国の外交に背くことなく、そしてそれに支障をおこさせることなくヨルダンの外交の軸をそれまでの米国一辺倒から多極的外交にシフトする方向に軸を移そうと決めたようである。
昨年12月17日にトルコで開催されたイスラム協力機構(OIC)で、トルコのエルドアン大統領が主張する「東エルサレムはパレスチナの首都に成ることが決まっている」という考えに、アブドラ国王も同意を表明した。
ここに、サウジに対抗して中東で勢力の拡大を図るトルコに同調する姿勢をアブドラ国王は明確に見せたのである。この考えの同一線上にイランがいる。実際、ヨルダン議会のアテフ・アル・タラウネ議長はシリアそしてイランとの同盟も模索すべきであると指摘している。
米国から年間12億ドル(1300億円)の経済そして軍事支援を受け、経済面においてサウジ、そして軍事面においてイスラエルに負うところの大きいヨルダンではあるが、新たな外交を展開して行くことが必要になっている。勿論、ヨルダンには急激な外交転換はできない。ヨルダンは軍事面において米国やNATOにとって重要な戦略拠点となっているからである。それを放棄してまで、ヨルダンがトルコやイランとの関係をより強化して行くとは思えない。
しかし、サウジが中東でイランの勢力拡大を警戒して地政学的に急激に変化を進めて行こうとすれば、それに反発してカタールやヨルダンのように小国はサウジの傘を出て独自の外交を展開させて、逆にサウジ離れが生じるようになる。
それを示すかのように、『Voltairenet』は英国と関係の深いヨルダン王家は中東におけるサウジとアラブ首長国連邦に対抗する同盟を組織しようとしていると指摘している。