韓国聯合ニュースは11日、「韓国政府がジョンーズホプキンス大学国際大学院(SAIS)所属の米韓研究所(USKI)の予算支援を停止すると発表した」と報じた。この結果、5月11日にはUSKIは閉鎖されることになる。表向きの理由は「研究業績が不十分だった」からだという。
正直言って、少々驚いた。なぜならば、北朝鮮の核問題をフォローしている読者ならば、USKIが運営してきた北朝鮮分析サイト「38ノース」は、専用衛星画像の分析に基づいて、北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の実験報告や核実験を予測するなど、多数の成果を上げてきた。ワシントンを拠点とした唯一の朝鮮半島専門シンクタンクだ。2006年の盧武鉉政権の時に設立されたUSKIは北の核関連施設に関する貴重な情報を提供してきたからだ。韓国政府はこれまで200億ウオンを投入してきた。
例えば、「2016年4月には寧辺の核施設で煙が排出されているとし、核兵器の原料となるプルトニウムの再処理の可能性を提起したが、これを感知したのは国際原子力機関(IAEA)より2カ月早かった」(聯合ニュース)という。
USKIは5月に閉鎖されるが、幸い「38ノース」の共同設立者で元米国務省官僚ジョエル・ウィット氏は「38ノース」は独自に運営を続ける方針を明らかにしている。米カーネギー財団などの寄付金で財源を確保し、独立研究所などの形で存続すると いう。
南北、米朝首脳会談を控えている。朝鮮半島の非核化は両首脳会談の最大議題だ。この時にUSKIの閉鎖決定は少々きな臭い。「38ノース」は国際社会に北の核関連情報を提供してきた数少ない機関だ。その機関を韓国政府が閉鎖するというのだ。理解に苦しむ。USKI機関の閉鎖は研究実績が乏しかったという理由ではなく、何らかの政治的思惑が潜んでいるのではないか、という憶測すら聞かれる。
そこでUSKI閉鎖の背景を考えてみる。先ず、USKIの閉鎖を誰が最も喜ぶかだ。答えは簡単だ。核関連施設が集中する寧辺周辺上空を24時間監視する人工衛星を苦々しく感じてきた北朝鮮の核開発担当官だ。彼らは新たな核関連活動をする時は蓋いをかけるなど、対策を強いられてきた。もちろん、最近は、監視衛星を意識した恣意的な情報工作もあった。いずれにしても、北関係者は常に「38ノース」の監視衛星を意識せざるを得なかった。USKIが閉鎖されれば、北核担当官にとって懸念が一つ除去されることになる。ただし、「38ノース」が継続されるならば、状況は以前と変わらない。
ここにきて噂が流れている、北朝鮮との融和政策を実施中の韓国の文在寅大統領がUSKIの閉鎖をプッシュしたというのだ。韓国中央日報によれば、「ヴァーリ・ナスルSAIS学長は9日午後、ロバート・ガルーチUSKI理事長、ク・ジェフェUSKI所長らを呼び、『韓国対外経済政策研究院(KIEP)が6月から韓米研究所の運営予算を支援しないと公文書を送ってきたため、5月11日付でUSKIを閉鎖することにした』と通知した」という。
「38ノース」関係者によると、「韓国大統領府からク・ジェフェUSKI所長とジェニー・タウン副所長をやめさせるよう要求があり、大学側が応じなかったため、閉鎖に追い込まれた」というのだ。ガルーチ理事長は「複数の韓国消息筋は今回の件はただ青瓦台内部の一人が主導したもので、政策や原則のためでなく個人的な課題として推進したと私に話した」(中央日報)という。この証言が正しければ、大きな問題だ。
上記の韓国メディアのUSKI関係者の証言から、USKIの閉鎖問題は、「38ノース」の人工衛星写真云々より、対北融和政策を推進中の文在寅大統領が金正恩氏への配慮から下された決定の可能性が考えられるからだ。考えにくいシナリオだが、北が非核化に乗り出すことを前提で文大統領が中長期の視点からUSKIの閉鎖に踏み切ったとすれば、余りにも楽観的過ぎると言わざるを得ない。北の非核化はまだ始まってもいないのだ。いずれにしても、韓国政府の「この時期」のUSKI閉鎖決定は通常でない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年4月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。