財務省の福田事務次官の「セクハラ発言」が話題になっている。本人の話によれば、自分の声だということは否定していないが、音声はそこだけ切り取られているので、文脈がわからない。相手の声も切っているので、訴訟を起こされても名乗り出ることは考えにくい。彼が「お店の女性と言葉遊びを楽しんだ」ときの音声だと主張したら、当の「女性記者」が出てこないと新潮社は勝てないだろう。
この話で思い出すのは、20年前の大蔵省の「過剰接待」事件だ。あれは第一勧銀の総会屋の事件から始まったが、1998年3月に東京地検特捜部が大蔵省証券局のS課長補佐(福田次官の同期)を逮捕したため、問題が大蔵省の接待疑惑に拡大した。
S課長補佐は風俗店(ソープランド)に頻繁に行っており、検察がその数百万円の伝票を入手したことが逮捕の決め手だった。当時の霞ヶ関の暗黙のルールでは、接待はシロだが現金はクロで、女は現金と同等という扱いだったからだ。
ところが逮捕してから、この風俗の出費は自費(!)であることが判明した。検察は動転したが、「50年ぶりの大蔵キャリア逮捕」を不起訴にするわけには行かないので、彼を213万円の接待で起訴した。この結果、法的には他の「ノーパンしゃぶしゃぶ」などもすべて犯罪に問われる可能性が出てきた。
大蔵省は3人の幹部を懲戒免職にするなど112人を処分する代わり、刑事訴追はしないということで検察と政治決着がはかられたが、大蔵省の業務はガタガタになり、金融庁が分離された。その後も公務員の接待について過剰な規制が行われ、役所が「情報過疎」になった。
立憲民主党は彼の更迭を要求しているが、もし真相不明の状態で彼を更迭し、あとになって無実だとわかったらどうするのか。無力な野党が「大事な政策論争」より「おもしろいスキャンダル」を好むのはわかるが、こんな騒ぎをいくら起こしても野党の支持率は上がらない。
かりに彼が飲み屋で女性をからかったとして、それが100兆円の予算を扱う財務次官の仕事にどういう影響があるのか。この手の下ネタで、国会審議を空費するのはやめるべきだ。本人が事実関係を認めて辞任しない限り、更迭するような問題ではない。