日本における現金決済の比率が先進諸外国に比べて高いことが、しばしば報じられている。
日本は高齢者比率が高く、高齢者がカード等を利用しない傾向があることが主たる原因として挙げられることが多い。
しかし、脱税も現金離れができない大きな原因の一つだと私は考えている。
現金決済は、極論すれば脱税の温床だ。
カード決済を行わない個人店舗が日本全国でいまだに多数存在しているのは、売上控除をするためだ。
実際には年間1000万円の売上があるのに、売上を500万円と申告する。
経費を差し引いたてカツカツの状態にして納税しなくても済むようにする。
レジスターが置いてあるのに、「レシート下さい」と言うとわざわざ手書きの領収書を出してくる店などは確実に売上控除をしている。
レジスターは現金が入った証拠になるので、わざと打たずに控除してしまうのだ。
とりわけ飲食店などは、仕入れとの対比が難しいので売上控除が簡単だ。
味覚という付加価値は料理人の手腕にかかっているので、(仕入れる食材の分量が少なくても)たくさんの売上を叩き出すことが可能だ。
税務調査が入っても、仕入れから売上を推計することは極めて困難だそうだ。
「現金オンリー」の店舗が多い以上、現金をある程度保有しておかないと客としても不安になる。
そんな事情も合わさって、カード等現金以外の決済が進まない。
「脱税をしている個人店舗はけしからん!」と、一言で片付けられない事情もある。
日本の税制は、勤め人(とりわけ公務員)に極めて有利にできている。給与所得控除があり、社会保険料は会社と折半だ。退職金は最高2200万円まで非課税という恩恵だらけだ。明日をもしれぬ自営業者が「守りの脱税」に走るのはある程度やむを得ない。
ある年だけ大当たりして売上がドンと上がると、税金をたんまり取られ、翌年には高額な予定納税が待っている。
それ以降赤字が続いても、たくさん払った税金は一銭も返してくれない。
このような事情を斟酌してか、フリーランス報酬アップや給与所得控除の縮小という公平化のための政策が模索されている。
自営業者が法人を設立して、自力で公平化を図っているケースも多々ある。
しかしながら、いままで「どんぶり勘定」でやってきた人たちにとっていきなり法人化するには、煩雑な事務手続というハードルがある。
今から思い返してみると、私が銀行に就職した頃は「のどか」というか「大雑把」そのものだった。
銀行預金一人あたり300万円非課税というマル優制度を、各銀行で使って何千万円も非課税にしている人たちがゴロゴロいた。
源泉分離課税16%の無記名割引債は現金に利息が付くようなもので、脱税の恰好の道具だった。こういう金融商品がなくなった今、現金信仰を減らすのは容易ではないだろう。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年4月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。