オーストリア、ファースト・ドックの「死」

オーストリアのアレクサンダー・バン・デア・ベレン大統領は15日、自身のフェイスブックで「愛犬キタ(雌犬)が3月30日(聖金曜日)に高齢のため安らかに亡くなった」ことを明らかにした。14歳だった。
オーストリア大衆紙エステライヒは今月16日、「オーストリアは国を挙げてファースト・ドッグの死を惜しんだ」というタイトルで1面にキタの写真を掲載して報じた。キタ(Kita)が大統領の犬でなくても、愛犬の死は関係者には家族の一員を失ったように辛いものだ。

▲ファースト・ドッグ「キタ」の死を報じるオーストリア日刊紙エステライヒ(2018年4月16日付)

思い出の写真集には、バン・デア・ベレン大統領の故郷の一つ、チロル時代のキタの姿が見られた。アルプスの山、豊かな自然に囲まれたところで、キタは自由自在に散歩している。キタにとって、チロル時代が最も楽しかったのではないだろうか。

主人が大統領に選出されて以来、キタにとって都会ウィーンでの生活はどうであっただろうか。メディアには時たま、大統領と早朝、英雄広場を散歩するキタの姿が報じられた。広場の芝生に犬は踏み込んではいけないが、キタはそんなことを知らないので芝生に入っているところを撮影されたことがあった。大統領が「緑の党」元党首出身だったこともあって、そんな写真もニュースになった。

エマニュエル・マクロン仏大統領は動物が保護されている「動物ハイム」から雄犬ネモ(Nemo)を引き取っている。ネモはラテン語で、英語の nobody に相当する。
マクロン氏曰く、「彼(ネモ)は動物ハウスからフランス大統領府のエリゼ宮殿の住人となったんだよ。考えられない人生の激変だね。もちろん、ネモ自身はそんなこと考えていないと思うがね」と笑いながらいう。
宮殿内で会議中に愛犬が壁の暖炉に向かって用を足した瞬間の写真が世界に発信された。大統領の犬でなかったならば、そんなことは日常茶飯事のことだが、生憎マクロン氏は39歳でフランス大統領に就任した主人だったので、ネモの不始末は全世界に知れ渡った(「“ファースト・ドッグ”の不始末」2017年10月26日参考)。

モスクワのクレムリンの主人プーチン大統領も愛犬家では負けていない。6年前、佐竹敬久秋田県知事(当時)がプーチン氏に秋田犬(ゆめ)を贈っている。最近では、プーチン氏はトルクメニスタンのベルディムハメドフ大統領から65歳の誕生日にアラドイの子犬をもらっている。
プーチン氏はなぜ犬が好きなのか。ソ連国家保安委員会(KGB)出身のプーチン氏は過去、ひょっとしたら現在も深謀をめぐらす世界に生き、時には非人間的な決断も下さざるを得なかった体験を多くしてきただろう。それだけに、犬の私心のない世界、その仕草に惹かれるのではないか。犬は飼い主を絶対に裏切らない(「なぜプーチン大統領は犬が好きか」2016年12月7日参考)。

英国で3月4日、亡命中の元ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)スクリパリ大佐と娘が、英国ソールズベリーで意識を失って倒れているところを発見された。調査の結果、毒性の強い神経剤はロシア製の「ノビチョク」である可能性が高いことが分かったが、プーチン氏はロシアの関与を否定する一方で「国を裏切る者は許されない」と強い口調で語っていたのが印象的だった。プーチン氏にとって、裏切りが最悪の行為なのだ。

米国のホワイトハウスでは歴代大統領は必ずといっていいほど愛犬を抱えていた。オバマ前米大統領は2匹の犬(ボーとサニー)を飼っていたが、トランプ大統領になってホワイトハウスから犬が見られなくなった。それを寂しく感じているのは、愛犬家の職員のほか、カメラマンたちだろう。犬と大統領は写真になるからだ。
トランプ氏が犬と戯れていたならば、全く違ったイメージが生まれたかもしれないが、トランプ氏は目下、犬より自身の言動に酔い、犬が介入できる余地がない。潔癖性のトランプ氏は犬と生活を共にできないだろう。

話をキタに戻す。ウィーン時代のキタにとって主人が大統領になったために一緒に散歩する時間は余りなかったはずだ。
「新しい犬を飼う予定は」というジャーナリストの質問に、バン・デア・ベレン大統領は苦笑しながら答えなかったという。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年4月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。