野党よ立ち上がれ

河井 あんり

森友があり加計学園でわいわいやってるかと思えば、財務次官のセクハラだ。国会では「手を縛っていい?」てのがセクハラかセクハラでないかを数十人の成人男女が口角泡を吹を飛ばして議論をし、ついには野党が麻生財務大臣のG20への出席を認めないという手段に出るに及んで、とうとう次官は辞意を表明するにいたった。本当にアホらしい一件であった。

次官の発言もアホらしいし、それを録音されてたってのもアホらしいし、開き直ってる次官の姿もアホらしかった。そんな次官を守るKYなおじさんたちもアホらしかったし、代議士先生達が真面目な顔して国会で議論してる姿もアホらしかったし、新潮社を訴えるといっていて結局辞表出したのもアホらしかった。国民が分かったことは、前次官が縛りたい人だ、てことだけだった。アホらし。

だけど、議員のはしくれとしてひと言言わせてもらえば、政局って、とても楽しい。何故ならとても「楽」だから。勉強も努力も要しない、つまりは頭は必要ないから。ただキャッチャーに罵る口先だけあればいいから。中傷の言葉は、夕方のニュースや次の朝のワイドショーに使ってもらえるように、長くとも10文字以内くらいに収まるようにするのが最もよろしい。だから、政局に必要な頭は、その10文字を考えることくらいだ。

だけどそれは議会議員の本分じゃない。

政策を語らない政治家は世に必要なんだろうか。

第二次安倍政権に入って以降、政治そして政治家は確実に劣化している。行政が緩んでいるとするならば、政治のタガがゆるまっているからなのかもしれない。どうしてこんなに程度の低い政治になってしまっているのか。安倍政権に反対する人たちは、それは政権が腐敗しているからだというに違いない。でも私は違う見方だ。もちろん、永田町の民度の話であるから、与野党ともに責任がある。しかし一番の原因は、安倍政権下で日本が安定していることではないか。安倍政権に対して野党は為すすべを失ってしまっている。政治文化の劣化の責任の一端は野党の劣化にある。

野党というのは、決定権はない。しかし、政権を評価し、監視し、訂正させることはできる。時には、対案を提案することもできる。それは野党の責任であり、存在価値だ。いま、野党は第二次安倍政権を、史上最低の政権と言わんばかり(実際に言っているのかもしれないが)に攻撃しているが、では野党が国益のために何をしてくれているかというと、全く責任放棄した状態だ。安倍政権の安定のもとに、野党は細分化されてしまった。そして、自ら考え、提案し、その理念のために闘う力を失っている。今の政治の体たらくはそのために生じている。

野党再編、野党共闘。何とかして野党は数を寄せ集めて、力を持とうとしている。たしかに、どんなに自民党への政党支持率が高まったとしても、せいぜい4割だ。残りの6割は非自民か、反自民だ。その人たちを糾合すれば、何か大きなことができるように思うのかもしれない。事実、選挙では野党共闘は大きな効果を発揮する。反自民の6割を固めれば支持率36パーセントだが、それは全体の4割しかいない自民党支持層を9割固めてやっと達成できる数字だ。だが、それまでのことだ。

共闘後に万一、政権を握ってしまったら、野党各党はどうするつもりか。連立を組むのか。政策理念や人事構想なんか何もないのに?非自民、反自民の一点で、自民党候補を倒すことだけが、安倍政権を倒すことだけが彼らの存在意義になっている。だから野党は所詮政権を取れない。他人の土俵で相撲を取っているうちは、勝負には勝てないものなのだ。野党各党もそれはじゅうじゅう承知の上で、決して責任を問われない「万年野党」という、安全で小さな場所から、ある時は自民党の悪どさを印象づけ、ある時は総理を中傷している。

左派勢力の好んで使う言葉に、「権力と闘う」というものがある。この言葉を使う人のことを私は全く信用できない。権力を否定する者は政治の道から去るべきだ。少なくとも政治に適性のある人の考え方ではない。なぜなら、政党の役割は政権を握ることである。それは権力闘争なのだ。大学一年生の政治学の授業で習うような話だ。

いま、日本の左派勢力は、権力闘争を否定し、権力闘争を諦めている。だからこそ、志の低い政治が生まれる。残念ながら今日の日本政治を左右しているのは、野党ではない。週刊誌だ。たとえ野党各党が求めるように安倍政権が倒れたとしても、次の自民党政権に対して野党は全く同じアプローチをするだろう。野党議員は週刊誌の報道を後追いし、新聞も週刊誌のようになっている。世界の政治と比べれば、日本政治の幼児性は際立って、大人と子供のようだ。こんな状況が正常なわけがない。

残念ながら、権力はあぐらをかくものだ。だからこそ、健全な野党がないところに、健全な政治は生まれない。それは自民党的には安泰な状況かもしれないが、長い目で見て国民の利益にかなうことではない。だからこそ、国民のために、野党よ立ち上がれ、と私は言いたい。

河井 あんり 広島県議会議員(広島市安佐南区選挙区、自民党)
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士課程修了。(財)海洋科学技術センター(現・海洋研究開発機構)地球フロンティア研究システム、科学技術振興事業団(現・科学技術振興機構)、広島文化短期大学非常勤講師を経て、2003年初当選(現在4期目)。公式サイト