以前、保険会社経由で交通事故人身事故の示談交渉の依頼を受けた。
事故内容は単純な追突事故で依頼側の過失が100%だったが、頚椎捻挫の被害者が医院ホッピングをするなどして症状固定を否定して揉めていたのでお鉢が回ってきたのだ。
保険会社担当者の話によると、契約者である運転者にとって免許取得依頼約30年で初めての事故で、とても気に病んでいるとのこと。
初めての交差点で少し車線を間違えて戻したところを白バイに追いかけられて切符を切られ、気分がイライラしていたということだった。
約30年間、事故はもちろんさしたる違反もない善良なドライバーだっただけに、サイレンを鳴らした白バイに拡声器で「止まりなさい」と言われたときはパニックになったそうだ。
「変えた車線には車がいなかったのだから危険性はなかったはずだ」と言っても聞き入れてもらえず、泣く泣く違反切符。
「それまで注意深く安全運転をしていた彼にとっては、自身の尊厳をひどく傷つけられたのでしょうねえ。やけになってアクセルを踏みまくった挙句の事故のようです」と保険会社の担当者は言っていた。
東京都内の交通取り締まりは、ドライバーが間違えそうな場所に白バイが待ち構えていて、間違えたとたんに摘発するケースがとても多い。
私も、停車中にウインカーを点滅させていたのを黙って見ていた白バイに、車線を変えたとたんに追いかけられた経験がある。
「ウインカーを点灯していたのだから、どうして事前に注意しなかったのか」と強く抗議をしたが、全く譲歩の余地はなかった。
このように、まるで罠にはめられたような摘発をされると、普段から真面目なドライバーはひどく自尊心を傷つけられるものだ。
前述の運転手にように、その後の運転が荒くなる人も少なくないだろう。
交通警察は、道路交通の安全を守るのが仕事であり義務であるはずだ。摘発した運転手の気分をカッカとさせて危険運転を誘発したのでは本末転倒だ。
摘発された人物の地位によっては、「共食いは止めましょう」と言って放免されることもある(本人の名前も地位も憶えているが、ここでは控えよう)。
安全で無事故にするのが交通警察の目的であり、何もないことこそ誇るべきことだ。
無益な摘発をして、「自分は仕事をしている」と悦に入っているとしたら大間違いだ。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年4月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。