世界は南北首脳会談をどう評価すべきなのか

韓国大統領府Facebookより:編集部

今のところ、金正恩の肉声を生中継で聞けたことが一番の収穫であったとしか言いようのない、今回の南北首脳会談。今日の会合が成功であったのか否かの最終判断は、米朝首脳会談に持ち越された。

北朝鮮との交渉はいつでも、北の言い値で決まる。日本人の拉致問題も、今回の南北首脳会談も同じだ。巨大なブラックボックスである北朝鮮からは、北の望んだ情報しか表に出てこない。今日、金正恩は、「世界に平和のプレゼントができる」と言った。自分が核開発をし、ミサイル発射実験を繰り返していたからこそ世界の平和が脅かされていたというのに、涼しい顔だ。これまでのところ、交渉は金正恩の思惑通りに進んでいると言っていいだろう。

北朝鮮は韓国を籠絡し、中国とロシアの許しを得て、芝居をここまで進めることができた。世界平和の実現は、最後に米国までも乗せられてしまうかどうかにかかっている。具体的な核廃棄のスケジュールを打ち出すことがなければ、本日の会談も無意味に等しい。南北の国内世論を知るよしもないが、和平の機運が高まっているところに、トランプ大統領は、現実的で厳しい話をすることができるだろうか。北朝鮮の核ミサイルの最大の当事者たる日本は、西側諸国が一致団結して毅然とした対応を取り、国際世論が甘やかな言葉に惑わされることのないよう、そしてトランプ大統領が正しい政治判断ができるよう後押しするべく、国際社会への働きかけを続けなければならない。西側諸国と中ロ北朝鮮との対立は、まだまだ続くと見た方がいいだろう。

韓国は「同胞」にすっかり骨抜きにされ、いまや日米韓の協調関係には楔が打ち込まれてしまっている。平昌五輪直前の日韓合意見直しから南北合同チーム編成、そして今回の首脳会談に至るまで、日韓関係にヒビを入れるための数々の仕掛けが用意されてきた。今回の一連の動きの中で日本が外されたとか安倍外交の失敗などと言っている人々がいるが、これは周到に計画されたものであると考えるべきで、世界平和を希求する日本国民ならば、安倍政権でなく日韓関係の信頼を損なわせた北朝鮮へ怒りを向けなければならない。ここで安倍外交を批判することは、北朝鮮の思惑にまんまと嵌ることである。

世界中の人々が、金正恩が急に変節した理由を知りたがっている。何の思惑もなくいい子になるわけがないこの指導者が、「世界平和のために」金家の利権を手放すとは全く思えない。金一族の権力の根源は、地下経済と、情報統制と、粛正も辞さない恐怖政治だ。今日の宣言を契機に、金正恩のこの権力基盤に何か変革がもたらされるだろうか?そうは思わない。開放経済は民主化に繋がり、金一族の排斥につながる。閉鎖されているからこそ、金正恩は金正恩でいられる。だから今後も北朝鮮は決して開かれない。彼が本気で私たちに平和のプレゼントをしてくれるというのなら、リビア方式による核査察とともに、選挙監視団も受け入れるべきなのだ。

体制の変革がない以上、「完全なる非核化」や、「朝鮮戦争終結」も、金正恩の権力基盤を強化するなんらかの思惑、仕掛けがあると考えるべきである。

河井 あんり 広島県議会議員(広島市安佐南区選挙区、自民党)
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士課程修了。(財)海洋科学技術センター(現・海洋研究開発機構)地球フロンティア研究システム、科学技術振興事業団(現・科学技術振興機構)、広島文化短期大学非常勤講師を経て、2003年初当選(現在4期目)。公式サイト