オススメが溢れる時代。人々は行きつけの飲食店で店員にオススメ料理を聞き、使い慣れたネットショップでオススメ商品のレコメンドを受け取る。
私は大学で就職課の事務職員として日々大学生の進路相談に乗っているが、最近、学生達の奇妙なリクエストが気にかかっている。多くの学生が、初めての面談時に「オススメの企業ってありますか?」と「ガチで」尋ねてくるのだ。大学職員は横の繋がりが強い職業であり、聞けば他大学でもこの事態はイレギュラーでないようである。違和感の正体は何だろう。
オススメを聞くこと自体は異常なことではない。信頼する知人や友人からの提案は有力な口コミであり、例えばかつての仲人による結婚相手の紹介もそのひとつだろう。しかし、それは当人をよく知ったうえでのオススメである。初めての飲食店でオススメされる料理は一般的な人気メニューだし、閲覧履歴など足あとのないECサイトではレコメンドのしようがない。
自分を詳しく知らない初対面の相手に人生の運転席を軽々と譲る学生達。一度きりの消費行為なら失うものはカネだけかも知れないが、進路決定は中長期的な投資行為。端から他人の推薦を当てにする他力本願な態度は危険極まりない行為である。たとえ相手がどれほどプロであったとしても、専門的な資格を持つ大人であっても、人生の運転席から降りてはならない。ハンドルを握るのは、いつだって君たちだ、と言いたい。
しかし、学生にも言い分はある。電車の中刷りで新卒フェアの隣に転職フェアの広告が並ぶのを見れば、学生達にとって最初の進路決定は大人が考えるほど重大事項ではなく、書き換え可能の軽い決定事項なのかも知れない。そんな学生達に向かって「今の若者は」などと咎めるつもりはない。ミスリードしてきた大人にも責任がある。ただ、山積する世の中の矛盾や理不尽を前に呆れ立ち尽くすのではなく、そんな世の中を1mmでも良くする真の意味での社会貢献に力を尽くしてほしい。そのために、新卒という(今のところは)ゴールデンカードを有意義且つ強かに活用してほしい。
そのために何が必要か。意外かも知れないが、教育基本法が役に立つ。第一章には「教育の目標」が掲げられている。そこには5つのゴールが設定されており、それぞれ、「真理を求める態度」「勤労を重んずる態度」「主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度」「生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度」「他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度」である。お気づきのとおり、教育のゴールは「態度」なのである。確かに、教育現場で学生達に対峙していると、これから社会に羽ばたく若者たちに欠かせないのは、明日からすぐに使えるスキルではなく、社会の荒波を乗り越え、その時々で求められるスキルを装着できるだけの骨太で逞しいスタンスだと感じる。
繰り返しになるが、オススメが悪いわけではない。真理にも勤労にも社会形成や社会発展にも無関心でコミットを放棄した、その待ちの姿勢を決め込んだスタンスこそ課題であり、その責任は少なくとも子どもと大人で折半であろう。谷村豊太郎氏の言葉を借りれば「直ぐ役に立つ人間は,直ぐ役に立たなくなる」のであるから、人づくりに携わる一大人として、即席人材の輩出ばかりに目がいっていないか、身を引き締める次第である。
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高部 大問(たかべ だいもん) 多摩大学 事務職員
大学職員として、学生との共同企画を通じたキャリア支援を展開。本業の傍ら、学校講演、患者の会、新聞寄稿、起業家支援などの活動を行う。