海外駐在外交官の「光」と「影」

スイスは欧州連合(EU)には加盟せず、直接民主制を国是とし、外交面では中立主義を貫いてきた。同時に、スイスのジュネーブには国連の欧州本部があり、人権理事会など重要な国連機関の本部がある。そのため、ジュネーブや首都ベルンには多くの外交官が駐在している。

▲ウィーン市の日本大使館・文化センター(2013年4月、撮影)

スイスではシリア内戦の紛争解決に関する国際会議が開催されたり、世界から政治家、経済界、実業家のトップが結集して「世界経済フォーラム」が毎年ダボスで開かれる、といった具合だ。

ところで、ジュネーブやベルンで駐在する外交官が違法駐車など交通違反で罰金を受けたとしてもそれを支払わない外交官が多く、その総額は数百万フランにもなるというのだ。

スイス・インフォが同国日曜紙ゾンタークス・ツァイトゥングの記事(4月22日)として報じたところによると、2014年~17年の間に、ベルン州にある90カ所の大使館に勤める外交官に科された反則金は、74万5000フラン(約8200万円)にのぼった。うち支払われたのは14万1300フランだけだった。国連の欧州本部や33カ国の代表部が置かれるジュネーブ州では、状況はさらに深刻だという。

罰金未払いの外交官にも言い分はあるだろう。1961年に締結された外交関係に関するウィーン条約に基づき、外交官ナンバーを付けた外交官車両は現地の法律が適用されないからだ。だから、違反金を支払わなくても問題視されない、と考える外交官が多い。外交官の治外法権だ。

交通マナーの悪さや罰金の未払いはある意味で囁かな不祥事かもしれないが、セクハラ、公金横領から腐敗になると事態は深刻だ。どの社会でも起きている犯罪だが、海外駐在外交官は、①国の代表であること、②特権を享受できる立場だということで、一般社会のそれより深刻に受け取るべきかもしれない。

日本では財務省事務次官のセクハラ問題がメディアから糾弾され、関係者が辞任に追い込まれるといったニュースが報じられていたが、海外駐在の日本人外交官の世界でもセクハラ事件は起きている。当方が記憶している限りでは、クロアチア駐在の日本人外交官が現地女性へのセクハラで左遷させられたことがあった。

また、ウィ―ン駐在日本外交官の中にはバブル経済時代の習慣を忘れることができない外交官がいた。昼間から高級酒を飲み放題、食事も寿司から肉料理までフルコースを注文する。名目はゲストへの接待だった。
一人の日本外交官が匿名条件で当方に明らかにしたところによると、「その外交官が招くゲストはVIP級ではなく、安いレストランで接待できる相手がほとんどだった。高級レストランへの接待は自身が食べたいからだった」という。もちろん、支払いは大使館持ちだ(「日韓外交官の現代『接待事情』」2010年8月21日参考)。

外交官の世界は一見華やかだが、一歩近づいて観察すると、罰金未払いからセクハラ、腐敗といった一般社会で起きている不祥事が同じように起きている。ただ、外部に漏れることが少ないだけだ。外交官の世界は例外ではない。外交官よ、驕るべからず だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年5月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。