皆さん、こんにちは。株式会社電力シェアリング代表の酒井直樹です。この4月から弊社も二期目に入り、ソフトバンクさん等とのコラボによる環境省事業の受託などで、おかげさまで、色々お問い合わせを頂戴するようになりました。
ソーラー・ブロックチェインシステムの概念図
電力シェアリング社の目指すビジョンは、住宅用太陽光で発電した電気を近隣でシェアリングするという、企業名の通りの電力シェアリングです。言ってみれば、「電気のメルカリ」あるいは「電気のジモティ」ですね。
ところが、ITのP2PとIoT(もののインターネット)のP2Pではその実現困難度が大きく異なるのです。ITのP2P、メルカリやジモティのビジネスモデルは、売りたい人と買いたい人をマッチングして、決済する。「もの」のPとPのやりとりはシステムの外側にあります。つまり、売りたい人と買いたい人が出会って、価格等の条件で折り合ったら(約定したら)、決済は面倒見るけど、売りたい人が自分で梱包して宅配業者に依頼して、買いたい人のところに届けられる。その「もののやりとり」自体は面倒をみる必要がありません。
一方で、IoT(もののインターネット)のP2P、例えば電力シェアリングやこれから出てくるであろう自動運転車による送迎サービスなどはそうはいきません。実際に提供者の「もの」を提供者から利用者に送り届けるということが必要になります。私たちの場合は、「電気」であり、Uberやトヨタなどがやろうとしているのは「車」になります。
もう一つ困難なことは、そのデータ管理量が膨大だということです。例えば、メルカリでブランドバックをやりとりする時にその取引に関わるデータはせいぜい、売買両者の氏名・住所・メールアドレス、商品ID、決済価格といったところです。これはEコマースのサーバーがあれば事足ります。ところが電力という複雑怪奇な商品をP2Pで扱うデータ量は膨大です。そこで我々は、ブロックチェーンが欠かせない技術だと考えています。
つまり、分散型太陽光で発電された電気を近隣でシェアするIoTモデルには、ブロックチェインが欠かせないという、「分散型太陽光発電システム」「もののインターネット管理システム」「ブロックチェインシステム」という3つの全く新しいシステムを統合しないと、このビジネスは成り立たないのです。図にすると以下のようになります。それを我々がパートナーと共に実現していこうというのがソーラー・ブロックチェイン・チャレンジ(Solar Blockchain Challenge(SBC))です。
Solar Blockchain Challengeの実現にはとてつもない労力がかかります。技術も開発しないといけない。法規制も変えなければいけない。そして何より金が稼げるビジネスモデルを構築しないといけない。
実は、既に電力のP2Pの実現を叫んで、何十億円も資本金を集めているベンチャースタートアップが世界には結構多くあります。例えば、シンガポールのElectrifyや、アメリカのLO3エナジーなどです。彼らもやはり、「ブロックチェインで住宅の屋根に置かれた太陽光で作られた電力を近隣同士の取引をする」ビジネスを目指しています。
「なんだ、やっぱり日本は世界に遅れをとってダメダメじゃないか。」とお嘆きにならないでください。私は、彼らのやり方には懐疑的です。ブロックチェイン通信内蔵型のメーターを作ったり、それを使ってニューヨークのど真ん中でデモ事業をやって見せたり、取引市場のWebサイトを美しく見せたり、彼らは世間の耳目を集め、ベンチャーキャピタルからお金を集めるのには長じていますが、彼ら自身が認めるように、その商用化は何年も先の話です。
そう簡単に電力のP2P取引はできないのです。我々はSolar Blockchain Challengeで「急がば回れ作戦」を採ろうと思っています。それは、例えば、今回のプロジェクトに賛同いただいた夏野剛さんがご自宅の太陽光パネル(実に夏野さんはご自宅に太陽光パネルを既にお持ちです)で生み出した電気を「生の電気」と「夏野さん宅で生み出した太陽光という価値」に分けて、電気は電気、価値は価値で分けて、それを再び価値と電気をくっつけて売ろうと考えています。そこで、ブロックチェインが大きな力を発揮します。
こうすることで、もののインターネット(IoT)のP2P取引を易しくすることができるのです。詳細はまたの機会にしますが、2つだけ言わせてください。
ブロックチェインそれ自体を全知全能の神様のように崇め奉るのはやめたほうがいい一方で、最近のビットコインバブルやIOCをめぐる問題を必要以上に強調してブロックチェイン技術全体をディスることはやめたほうがいいということです。ブロックチェーンはインターネットのようなものです。インターネットもバブルが起きて、弾けましたが、結果として我々の生活を大きく変えるような革命的な技術でした。ブロックチェインにも社会を大きく変える大きな可能性があるということです。それは電力システムを変え、社会のあり方を変え、Society5.0を実現していくための必要欠くべからざる技術になるだろうということです。
二つ目は、分散型再生可能エネルギーと従来の中央集権的な電力システムのどっちを取るかという極端な二極論、ゼロサムで語らないほうがいいということです。確かに小型太陽光発電システムの値段は劇的に下がっていて、遠くの発電所から運んでくる電力よりも安くなるというグリッドパリティは世界のあちこちで起きつつあります。実際に、日本でもある一定の条件の下では、自宅の屋根に太陽光を置いて発電した電気の方が、電力会社の電気よりも安いという状況が発生しています。しかし、全世帯がテスラの完全自給自足システムを導入することはおそらくない中で、家で作った電力の余った分を配電線に流して、配電線経由で近隣とやりとりする必要性は引き続き残るということです。その配電線システムのコストも含めてのパリティを語るべきなのです。今は、そういった議論が日本でほとんどなされていないのは大変残念です。
というわけで、事業性をしっかり確保しながら欧米ベンチャーに負けないで、ブルーオーシャンを渡っていく、ソーラー・ブロックチェイン・チャレンジ(Solar Blockchain Challenge(SBC))を是非みんなで実現しようと思います。パートナーや賛同者は大募集です。どうぞよろしくお願いします。
株式会社電力シェアリング代表 酒井直樹