米国がイラン核合意離脱、制裁発動のカウントダウン開始

安田 佐和子

トランプ大統領は8日、イランの核問題に関する包括的共同作業計画(JCPOA:Joint Comprehensive Plan of Action)への離脱を表明しました。ただし同日に財務省が公表したムニューシン財務長官の声明資料によれば、「最高レベル(highest level)」の制裁発動に90~180日の猶予を与えています。なお最大180日は、制裁発動前として通常の猶予期間となります。

90日後、8月6日から発動する制裁項目は以下の通り。

・イラン政府による米ドル取得
・イランによる貴金属取引
・イランとの直接的及び関節的なアルミ、鉄鋼、黒鉛、石炭、産業用プロセス向けソフトウェアなどの取引
・イランの通貨リアルの“大口(significant)”売買、イラン国外での大口リアル建て口座の維持
・イラン国債に対する購入予約、取得、販売促進
・イランの自動車セクター
>JCPOA後に緩和された以下の案件を無効へ
・イラン産カーペットや食料品の輸入、またイラン取引制裁規則で許可された米財務省外国資産管理
(OFAC)による一般許可(general license)に依拠した資金移動
・Statement of Licensing Policy (SLP)の民間航空機と関連部品に関わる特定ライセンス
・上記の一般許可 Iに関わる条件付き活動

マクロン仏大統領の訪米では、乾杯を交わしたものですが・・。


(出所:The White House/Flickr)

そのマクロン仏大統領の反応はこちら。オバマ前大統領も批判を展開


(出所:Twitter

180日後、11月4日から発動する制裁項目は以下の通り。

・イランの港湾施設のほか、海運業者及び船舶セクター
・イラン企業が関与する石油及び石油化学製品の購入
・イラン中央銀行及び同国金融機関と取引する海外の金融機関
・イラン包括制裁法(CISADA)に基づく、(イラン中央銀行や同国金融機関へ専門的金融メッセージサービス(※大量破壊兵器の拡散、国際テロ組織への支援を助長したとの判断)
・イランの保険や再保険
・イランのエネルギー関連企業

さらに11月5日以降、トランプ政権は米国による核関連の制裁を再発動すると発表、海外子会社によるイラン政府及びイラン国民との取引に関わる規制緩和を撤廃します。

項目を眺めると、一次制裁(米国人対象)と二次制裁(非米国人対象)が混在しています。どこまで厳格に二次制裁を適用するかは不透明。詳細は、米財務省の追加情報を待たねばなりません。

なお今回、ホワイトハウスが公表した声明でイランが即刻停止すべき条項として、①核兵器の開発や大陸間弾道ミサイルなど地域不安定化に関わる研究・開発、②テロ支援、③イスラエルへの威嚇、④ペルシャ湾と紅海などでの自由な航行への脅威、⑤イエメン内戦への加担など地域不安定への支援、⑥米国及びイスラエルをはじめとする同盟国へのサイバー攻撃、⑦人権侵害、⑧米国市民を含む外国人の不法拘留――を挙げていました。一連の長い項目からは、イラン核合意離脱後、制裁が発動する8月6日までに欧州など他5ヵ国との妥結余地は狭いように見えます。

金融市場はほぼ織り込み済みだったとはいえ、原油相場以外は冷静な反応にとどまりました。原油相場は一時4.38%安の67.63ドルまで急落したものの切り返し、2.4%安の69.06ドルで取引を終えています。下げ幅は縮小したものの、出来高は記録的となり終値確定まで1時間遅れる事態となりました。

米株相場はイラン核合意の米国離脱発表後を受け、地政学的リスクをにらみ防衛関連をはじめ素材や資本財の一角が上昇したほか、原油高への期待感もあってエネルギー関連が指数を支えました。ダウは小幅に4日続伸し約2週間ぶり、ナスダックも3日続伸し3週間ぶりの高値で終了しています。米国の離脱表明後にイスラエルがシリアを攻撃したと報じられた半面、VIX指数は4日連続で低下し、3/9以来の低水準で引けました。ウォール街の冷静な反応が正しかったのか、答えは90日後の制裁発動が予定される8月6日頃に判明するのでしょう。

(カバー写真:The White House/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年5月9日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。