原油先物価格が70ドル突破、80ドル台へ押し上げもありうるか

5月7日に原油価格のベンチマーク(指標)となっているニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)に上昇している原油先物のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は、期近の6月物で1.01ドル高の1バレル70.73ドルで引けた。引け値でも70ドルの大台を突破した。

年初に、WTIの100ドル台を正当化しうる材料も見当たらないため、あくまでこれはいまのところ初夢というか、仮定・想定の話ではあると書いたが、WTIの100ドル台乗せもあながち奇想天外な予想ではなくなりつつある。

ここにきての原油価格の上昇にはイランを巡る動きが関係している。米英仏など6か国が2015年に結んだ合意はイランにウラン濃縮活動などを大きく制限する代わりに、経済制裁を解除する内容だった。

トランプ米政権は同合意を「最悪のディール」と批判し、抜本的な見直しがされない限り、対イラン制裁解除の是非を再検討する期限である12日に合意から離脱する方針を示した。米国がこの制裁を再発動すれば、原油に依存するイラン経済だけでなく、世界の原油市場への影響は大きい。世界の消費量の1%にあたる100万バレル前後の供給が減るとされる(日経新聞の記事より)。

そして、産油国であるベネズエラの経済混乱による影響も出ている。ベネズエラは財政悪化による資金不足で産油量が落ち込んでいるのである。

ただし、これらの影響も大きいとはいえ、ここにきての原油価格の上昇の背景には、価格下落を危惧した石油輸出国機構(OPEC)諸国とロシアなどが昨年初めから協調して減産したことによる影響が大きい。

サウジアラビアの政府高官は、原油価格について「サウジアラビアには上昇を止める意向は一切ない」と発言しているようだが、サウジアラビアは今年、原油価格を少なくとも1バレル=80ドルに押し上げようとしている(WSJ)。

世界的な景気拡大による需要増も相まって原油価格の反発基調が続いている格好となっている。WTIは2014年7月から2015年1月あたりにかけて急落し、その急落相場から立ち直りかけているところである。チャート上からはWTIは66ドルあたりを上抜けると100ドルあたりまで節目らしい節目はない。テクニカル的にみても80ドルや100ドル台乗せは十分にありうる。

いまのところ、この原油価格の上昇が景気の足を引っ張るような状況にはなってはいないようだが、今後、企業業績に影響が及び、価格転嫁によって家計にも影響を与える可能性がある。個人的にもガソリン代の値上げはあまりうれしくはない。

しかし、原油価格の上昇は消費者物価指数に押し上げ要因ともなることで、WTIが80ドル台、100ドル台へと上昇してくれば、当然ながら日銀の物価目標としている消費者物価指数の押し上げ要因となりうる。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年5月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。