スペイン三大銀行の一つで、中国人マフィアの資金洗浄疑惑

白石 和幸

訴追されたカイシャバンク(The Elpaisより引用)

スペインのテロ事件や国家レベルの重要な犯罪を専門とする高等裁判所に匹敵する裁判所アウディエンシア・ナシオナル(Audiencia Nacional)のイスマエル・モレノ判事は4月19日、スペインで資金力で3番目に位置するカイシャバンク(CaixaBank)を訴追した。

容疑は2011年から2015年にかけて同行のマドリード州フエンラブラダ市のカボ・カジェハ工場団地地区とマドリード市内エムバハドーレス地区に所在する10支店が中国人マフィアの資金洗浄で中国に送金するのを容易にしたという疑いからである。その総額は9910万ユーロ(129億円)に及ぶという。

この事件がスペインで波紋を呼んでいるのは、スペインの3大銀行の一つがこの事件に関わっているということと、しかもそれが10支店にまで及んでいるということで、同行の信用を傷つけるものだとしてカイシャバンク経営陣は社会に与えるそのマイナス影響を懸念しているという。

この事件が発覚したのは2016年と2017年にマドリードで営業している中国商工銀行(ICBC)がスペインに在住する中国人が非合法な手段によって得た資金を中国に送金していたことが明らかにされた。が、スペインの検査当局の監視の目を逸らすために彼らはスペインの銀行からも送金を行っていた。それがカイシャバンクを訴追することに繋がったのである。

この解明調査を進めて行ったのはスペイン治安警察のオペレーション統一センター(UCO)と資金洗浄予防班(Sephlac)である。この二つの当局が捜査の対象にしていたのは4つの事件である。Emperador、Sneake、Juguetes、Polvoraの4つで、それぞれ中国人による資金洗浄の疑いがあるとして捜査されていた事件であった。

例えば、彼らが資金を集めるのに使った手段として中国からコンテナーでヨーロッパに輸入される商品の価値を6分の1の価値で税関に申告し、それに適用される消費税(IVA)の金額を少なくさせる。その輸入された商品が一旦スペインに入ると、価格を安くした偽造インボイスを作成して利潤を少なくして法人税など税金の支払いを少なくする、あるいは赤字にして法人税の支払いから逃れる。このような手段を使って、資金を貯めて、それを中国か香港に送金する。その送金にICBCやカイシャバンクが仲介していたという訳である。

Emperador事件の場合、捜査で2254回の送金で4160万ユーロ(54億円)が送金されていたという。送金回数が多いのは監視の目を逸らす目的で一度の送金額を少額にして送金するという形を実行していたからである。

今回の資金洗浄で訴追されているのは76人と117社であるが、それが銀行の支店でコントロールされていなかったということになる。或いは、それを承知で支店長が送金を許可していたという疑いもある。それらが今後の調査で解明されることになるはずである。

スペインの銀行法では資金洗浄を防止する目的で外国からの入金あるは外国への送金が1万ユーロ(130万円)以上の場合は銀行は税務署の関係当局にそれを申告する義務がある。またスペイン国内の場合は10万ユーロ(1300万円)以上の資金の動きがあった場合も同様に申告が義務づけられている。しかし、現実には銀行もサービス面で他行との競争もあり顧客の意向を優先するあまり、その義務を敢えて怠っているのが現状である。

例えば、3大銀行のひとつBBVA銀行の場合、資金の洗浄やテロ資金の防止対策として社員教育をこれまで39万6000時間を費やしているという。もうひとつの大手サンタンデール銀行はポピュラル銀行を昨年買収した際にポピュラル銀行が実施していたと思われる136件の資金洗浄行為を関係当局に申告している。

カイシャバンクは銀行法が改正になった時にバルセロナ信用金庫が主体になって創設された銀行である。銀行マンとしてのプロ意識が他2行と比較して欠けているのかもしれない。