PAは達人、でも指揮は外科医:オペ室のフィジシャン・アシスタントって何?後編

>>>前編はこちら

一緒に手術室で働くORPAは、手術に関しては技術と経験の塊みたいな人達です。そんなプロフェッショナルの人達の中に、中途半端な心臓外科医である僕が入り込んでいったので、最初の頃は彼らとうまくいかないこともありました。

正面が北原氏、手前はPAのジョン・S氏(北原さん提供)

向こうは特に意識していないかもしれませんが、働き始めの頃など僕はただなんとなく手術室にいて、なんとなく手術に入っていたので、PAが第一助手、僕が第二助手みたいな逆転現象をきたすこともありました。上司に相談しても「基本的には職業が違うのだからポジションを取り合うなんてことは起こらないはずだ」と言われましたが、「でも、実際には被ったりしているし、ポジション取られたりもあるんだけどな」と思っていました。まぁ実際にはどうでもいいことなのですが。

場所によってはPAの仕事はバイパス用の静脈だけとってあとは何もしない、とかもあるみたいで、というかむしろそっちの方が主流で、シカゴ大学はどちらかというと手術室にしろ病棟管理にしろPAの仕事の占める割合がかなり多いみたいなのです。これは、一時期胸部外科レジデントが全くいなかった時期があり、その時に全ての仕事がPAのみで回るようなシステムを作ったのではないか、と誰かが言っていました。そのため、新しいフェローやレジデントが来ても、特に仕事がなかったり、PAと仕事が被ったりするのです。

チーフは自分の手術になるとPAが助手した方がやりやすいものだから、レジデントには助手をやらせずPAを第一助手にしています。手術の最後にはチーフは早々に手術室から立ち去るため、術者もPA助手もPAみたいな形になり(実は最強の組み合わせですが)、人工心肺を離脱して、止血して、閉胸して、とスルスルとやっています。心臓外科担当ナースの親戚がシカゴ大学で心臓手術を受けることになった時、執刀するチームとしてチーフとジョン・G&S(できるPA達)を希望していました。選抜メンバーに組み込まれず、やや悔しかったです。

途中から徐々に手術の執刀の機会が増え、PAと仕事が被るということはあまりなくなり、特にストレスなくやっています。現在の課題は、主導権を握ってPA(助手)をコントロールしながら手術をする、というものです。基本的に心臓の手術は術者が全てを指揮して行うのが理想的かつ最も合理的だと思います。しかしながら、PAの技術が抜きん出ていると、また英語がしっかりしていなかったりすると、言うこと聞かずに勝手なこと始めたり、歌い出したり、踊りだしたり、良かれと思って視野を勝手に変えてくれたりして逆に困る、みたいなことが起こります。

悪気は全くないし、他のスタッフが手術する時などはおとなしくしている様子をみると、僕の足りないスキルを埋めてくれようとしている(ポジティブ)、かつ、こいつの言うことなんか聞いていられるか(ネガティブ)といった思いが半分ずつ込められているのだと思います。手術室で起こる全ての事象をコントロールする、というのは技術以外の様々なスキルが必要と考えられ、まだまだ修業が必要です。とりあえず助手が歌い出したら僕もなんとなく音楽にノッているふりをするところから始めようと思います。

いつのまにかPAの話が僕の修業の話になっていました。まとめです。僕が思うORPAとは

  • 日本のレジデントのすごい陽気バージョン
  • 知識、技術の塊
  • でも、医師とは違う(責任?考え方?)

みたいな感じです。

追伸

新しく回ってきた胸部外科レジデントのあるあるです。だいたい1カ月くらいしたところで自分が胸を閉めた症例が出血のため再開胸が必要になったりします。その時、口を揃えていうのが「いや、でも閉めたのはジョン・Gだから」。世の中にこれほどかっこ悪い言い訳はあるのか、と思います。しかし「それは違うんじゃないかな、たとえジョンが優れた技術と知識を持っていたとしても、そこにいた外科医は君だけなんだから、君には外科医としての責任があると思うよ」という英語力はないので、笑顔で「ノー」とだけ伝えます。


北原 大翔    シカゴ大学心臓胸部外科、心肺移植・機械式循環補助 クリニカルフェロー

1983年東京生まれ。2008年慶應義塾大学医学部卒業。
慶應義塾大学医学部外科学心臓血管外科に入局、その後同大学、東京大学、旭川医科大学で心臓血管外科として研修を行い、2016年9月渡米。若手心臓外科医の会 留学ブログ


編集部より:この記事は、シカゴ大学心臓胸部外科医・北原大翔氏の医療情報サイト『m3.com』での連載コラム 2018年4月15日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた北原氏、m3.com編集部に感謝いたします。