本日(2018年5月21日)夕刻の経済財政諮問会議において、政府は、中長期的な観点で社会保障改革に関する「国民的」議論を行うための「土台」として、「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」を公表した。
この試算は、年金・医療・介護といった社会保障の「給付と負担の見通し」等を示すもので、2018年度から2040年度における社会保障給付費(対GDP)等の推計を行っており、約6年前の厚労省「社会保障に係る費用の将来推計の改定について」(平成24年3月)の改定版に相当するものである。前回の試算は2012年度から2025年度であったが、今回は2040年度まで拡張している。
では、今回の試算が意味するものは何か。一言でいうならば、非常に厳しい社会保障の姿を示す。まず、本稿では、その説明を行う前に、推計の前提を簡単に確認しておこう。推計に利用した人口は、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(2017年推計)」(出生中位(死亡中位)推計)である。
また、名目GDP成長率や物価上昇率としては、2027年度までは内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(平成30年1月)、2028年度以降は公的年金の「2014年 財政検証」に基づいた前提値などを利用している。
例えば、成長実現ケースでは、2027年度の名目GDP成長率は3.5%、2028年度以降は1.6%としており、ベースライン・ケースでは、2027年度の名目GDP成長率は1.7%、2028年度以降は1.2%としている。
しかしながら、1995年度から2016年度の約20年間において、名目GDP成長率の平均は0.3%しかない。成長率が予想を上回る場合は問題ないが、名目GDP成長率が今後その4倍以上に上昇するという前提で改革を検討するリスクは本当に無いか。
以上の前提の下、ベースライン・ケースでも、2018年度に対GDP比で21.5%であった社会保障給付費(年金・医療・介護等)は、2040年度に最大で24%に増加するというのが今回の試算(給付と負担の見通し)のポイントである。
すなわち、社会保障給付費(対GDP)は約20年間で2.5%上昇する。現在のGDPは約550兆円であるため、いまの感覚でいうと、この社会保障給付費の増加は約14兆円(=550兆円×2.5%)に相当する。
消費税率1%の引き上げ(軽減税率の影響を除く)で概ね2.5兆円の税収が得られるから、仮に消費増税でこの増加に対応するには、消費税率を約6%弱も引き上げることを意味する。それに加えて、財政赤字(約20兆円)の縮小も考慮すると、2040年度において、消費税率は8%から22%にまで引き上げる必要があることになる。
なお、財務省の財政制度等審議会財政制度分科会が起草検討委員の提出という形で公表した「我が国の財政に関する長期推計(改訂版)」(平成30年4月6日)によると、医療・介護費(対GDP)は、2020年度頃に約9%であったものが、2060年度頃には約14%に上昇する。
40年間で医療・介護合計では約5%の上昇で、2020年度から2040年度までの20年間では約2.5%の上昇のため、内閣府等の今回の試算と整合的なものとなっている。仮に財務省の長期推計が妥当であれば、社会保障給付費(対GDP)は2040年度から60年度までに、さらに2.5%も上昇することを意味する。
これは、消費税率をさらに約6%弱も引き上げる必要があることを示唆するもので、社会保障改革をしっかり行わない限り、財政を安定化させるためには、最終的に消費税率を最低でも30%程度に引き上げる可能性が高いことを意味する。このため、増税のみで財政再建を行うことは不可能であろう。
すなわち、現在の年齢差別的な医療の「窓口負担」を改め、応能負担別の「窓口負担」に変更する改革の必要性はいうまでもないが、診療報酬等の自動調整メカニズムの導入や公的保険給付の範囲見直しを含め、将来世代や若い世代の利益も視野に「国民的」議論を深めつつ、社会保障の抜本改革を進めることが喫緊の課題である(注:診療報酬等の自動調整メカニズムは、2018年5月11日の読売新聞(朝刊・11面)の「論点 医療・介護費も自動調整で」を参照下さい)。
(法政大学教授 小黒一正)