日本政府、与党関係者は、6月20日までの今会期中に通称カジノ法案、正式は特定複合観光施設区域(IR)の整備推進に関する実施法案の成立を目指しているという。
同時期、カジノの先進国・スイスで6月10日、「新賭博法」(BGS)に関する国民投票が実施される。スイスからの情報では賛成派と反対派が激しい争いを展開している。そこで、スイス・インフォが配信した「新賭博法に関する国民投票」関連記事を報告する。日本のカジノ法案を考える上で参考になる。
賭博法の焦点は、①賭博依存症への対策、②治安対策、不法資金の洗浄(マネーロンダリング)対策の2点だ。昨年9月、スイス連邦議会で可決された「新賭博法」では、デジタル時代に対応するため政府の許可を得ればオンライン賭博の運営も許可される一方、賭博依存症の対策もこれまで以上に強化された。例えば、新賭博法では、現在カジノだけに課せられている賭博依存症対策の義務が州とそこに所在を置く宝くじ企業にも適用され、依存症防止の専門家が少なくとも1人は監督当局に配属されるようになる。
スイス・インフォによれば、「新賭博法」は昨年末、連邦議会で過半数を大きく上回り可決された。反対は自由緑の党(GLP)国民党(SVP)の過半数、緑の党、急進民主党(FDP)の少数派だけだった。
反対派はデジタルネイティブな世代が多く、連邦議会に議席を持つ4大政党(国民党、急進民主党、自由緑の党、緑の党)の青年部は新賭博法に対し国民投票の実施を要求し、必要な署名5万件を集めた。
賛成派は、①新法が公益を潤す、②ギャンブル依存症の対策強化の2点を主張する。大規模な宝くじやスポーツ賭博の運営権利を持つ賭博協会などは、新賭博法が導入されれば新しいタイプの宝くじやスポーツ賭博を企画できるようになる。例えば場外馬券売り場や、スポーツの試合中にリアルタイムで賭博をすることも可能になる。
ちなみに、2012年に可決されたギャンブルに関する憲法により、収益は、老齢・遺族年金制度(AHV)、身体障害保険(IV)、文化事業、社会福祉、スポーツ振興、共益施設に使うと決められている。
一方、反対派は、①新法がインターネットの検閲行為を助長し、スイス・カジノの孤立を招く、②外国のギャンブル企業を締め出す、③信頼できる企業サイトにアクセスできない場合、インターネットでギャンブルする人々は闇市場に流れる危険性が出る、④サイトブロッキングは自由経済と情報の自由に反する、等を主張している。
なお、ソマルーガ法相は、「サイトブロッキングはスイスに限られたことではない。既に他国でも広く行われ、欧州だけでも既に17カ国で実施されている」と説明している。
現時点では賛成派が政府、連邦議会の過半数、州政府の支持を得て有利だ。また、スポーツ、文化、社会機構の各種協会からの支持は大きいという。スイスの政治に関わるほぼ全ての政党を網羅した政治家から成る大規模な推進委員会の協力も得ているという。
賛成派と反対派のやり取りはここにきて激しさを増してきた。賛成派は「反対派はネット上でギャンブルサイトを運営する外国企業から融資を受けた」と非難すれば、反対派は「賛成派は宝くじやスポーツ賭博を提供するカジノや賭博協会に操られ、国民投票に向けたキャンペーン活動に必要な資金を受け取った」と非難する、といった具合だ。
スイス・インフォによれば、スイスではカジノの総所得(支払った賞金を差し引いた収入)の4~8割を税金として納めている。Aライセンスのカジノ(グラン・カジノ)は税金の全額を老齢・遺族年金制度(AHV)と身体障害保険(IV)に、Bライセンスのカジノは税金の6割をAHVとIVに4割をカジノが所在する州に納める。2016年にカジノ21軒が支払った税金は合計3憶2330万フラン(約352億円)。うち2億7590万フランをAHV/IVに4730万フランを州に納めている。
日本では2016年12月、IR推進法案が成立し、今回、IR実施法案の成立に向けて審議に入るわけだ。法整備からカジノ候補地の決定など、まだまだ越えなければならないハードルは控えている。日本第1号のカジノのオープンは2025年前後になると予想されている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年5月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。