パレスチナの国際機関「加盟」外交

パレスチナは今月、ウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)、ジュネーブに事務局を構える国連貿易開発会議(UNCTAD)、そしてオランダ・ハーグの国際機関の化学兵器禁止機関(OPCW)に加盟した。

▲パレスチナのUNIDO加盟を明記した国連通達書のコピー

▲パレスチナのUNIDO加盟を明記した国連通達書のコピー

▲パレスチナ、OPCWにも加盟

▲パレスチナ、OPCWにも加盟

パレスチナは2011年10月末、パリに本部を置く 国連教育科学文化機関(ユネスコ)に加盟して以来、さまざまな国際機関に加盟、準加盟してきたが、3つの国連、国際機関に同時加盟を果たしたことは今回が初めてだ。

トランプ米大統領が昨年12月6日、イスラエル米大使館をエルサレムに移転表明して以来、パレスチナとイスラエル間で紛争が続いている時だけに、パレスチナ側の外交攻勢の一貫と受け取ることができる。もちろん、その外交舞台裏ではイスラエル側の強い反発が予想される。

ニューヨーク国連からUNIDO加盟の通達書のコピーを入手した。それによると、パレスチナの加盟は今月17日付けで発効した。UNIDO担当のパレスチナ人外交官は当方の電話インタビューに応え、「パレスチナは世界の一員として責任と連帯を担っていく方針だ。国際機関への加盟はパレスチナの完全な独立国家への道を切り開いてくれると信じる」とその喜びを吐露した。

ところで、加盟国の脱退が続くUNIDOにとって、新規加盟国のニュースは久しぶりだが、UNIDO関係者から新規加盟を喜ぶ声が余り聞こえてこない。

人口10万人余りの太平洋上にある国キリバスが2016年2月にUNIDOに加盟した時、UNIDOの李勇事務局長は、「キリバスの加盟を歓迎する、同国の持続的経済発展にUNIDOも積極的に支援していきたい」とエールを送ったほどだ。しかし、パレスチナの加盟ではそのようなエールがUNIDOのどこからも出てこないのだ。

少し考えれば、当然かもしれない。パレスチナが加盟したとしてもUNIDOの予算が潤うわけではない。むしろ出費が増えるだろう。それだけではない。パレスチナの加盟を喜ばない加盟国から分担金の拠出を渋る国が出てくる懸念のほうが大きいからだ。

参考までに、加盟国の脱退自体はUNIDOではもはや珍しくない。先進諸国でUNIDOに留まっている国は少数派だ。UNIDOから脱退した国は、カナダ、米国、オーストラリア、ニュージーランド、英国、フランス、オランダ、ポルトガルなどだ。それに脱退予備軍としてスペイン、ギリシャ、イタリア、ベルギーの名前が挙がっている。

米国は1996年、「UNIDOは腐敗した機関」として分担金を払わずUNIDOから一方的に脱退しているから、米国からの分担金云々といった懸念はないが、加盟国の中には米国やイスラエルの圧力を受ける国も出てくるかもしれない。繰り返すが、パレスチナの加盟は現時点では国連・国際機関にとってメリットよりマイナスの方が大きいわけだ。

蛇足だが、日本は米国の脱退後、UNIDOの最大分担金拠出国だ。ウィーン国連外交筋では、「日本は中国の李勇事務局長のもと忠実な資金提供者となっている」と囁かれている。

その李事務局長は母国中国に帰国した時、習近平国家主席が提案した新シルクロード「一帯一路」(One Belt、 One Road)構想を評価し、UNIDOという国連専門機関の名で「一帯一路」を推進する計画を明らかにしているのだ。日本はUNIDOが中国の「一帯一路」構想の下請け機関とならないように警戒すべきだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年5月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。