取締役の任期は正確にはいつまで ⁉︎

荘司 雅彦

会社法332条本文は、

「取締役の任期は、選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結までとする」

と規定している。

例えば、2018年6月20日の定時総会で選任された取締役の任期は、2020年6月20日以前に開催される株主総会の終結によって終了する。

ここで面白いのは、任期の終了が「株主総会の終結」となっている点だ。

定時株主総会では、従来の取締役が再任されたり新たな取締役が選任される。従来の取締役20人のうち10人が再任され、残りの10人は任期終了と共に退任するとしよう。

株主総会で新たに10人の取締役が選任されると、当該株主総会が終了するまでの間は、従来の取締役20人と新たに選任された取締役10人の合計30人が取締役であることになる。

もっと細かく言うと、選任決議がなされてから総会終了までの間は、瞬間最大風速として30人の取締役が存在する。

もし、退任する取締役10人の中に代表取締役がいたとしよう。

代表取締役副社長が2人いたとすると、株主総会終了までの間、その2人の代表取締役は対外的に会社を代表して取引行為等を行うことができる。もし、私腹を肥やす目的で、いつもキックバックをしてくれる企業に大口の注文をしたとすれば、その注文は有効だ。

代表取締役が自己の権限を濫用したことになるが、民法93条但書が類推適用され、相手方企業が「善意・無過失」の場合は取引の無効を主張できない。

民法93条は、以下のように規定している。

意思表示は、表意者がその真意でないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

例えば、ある人が本心では相手と契約を結ぶ気持ちが全くなかったとしても、「契約を結ぼう」と相手に言ってしまったら、「あれは、本心じゃなかったのだよ…」という言い訳は通用せず、契約は有効に成立する。

もっとも、相手が「また、いつもの冗談かい!」とその人の真意を知っていたような場合は無効にするという規定だ。

対外的に会社を代表する代表取締役がいつもの会社に注文を出せば、会社がそんな注文を出すことはなくとも、善意無過失の相手に対して注文の無効を主張できない。いつもの注文のレベルをはるかに超えて、会社にとって巨額の取引行為を締結されてしまったら、会社は莫大な損失を被る恐れがある。

通常はこんなバカバカしい事態は発生しないだろう。
悪さをやるのであれば、任期中にやれば済むだけのことだから。

かつて、ジャイアンツの江川投手問題で「空白の一日」というのがあったが、株主総会終了までの「空白の数時間」を悪用するような事例が発生すれば…個人的にはとても興味深いのだが(笑)


編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年5月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。