きのう(5月30日)、1年半ぶりに行われた党首討論は、安倍首相と野党4党のマッチアップをわずか45分に押し込んだために、消化不良感こそ否めなかったが、限られた持ち時間にどの論点を充てるか、ある意味、野党党首たちの本質がむしろ浮き彫りになった。
野党がモリカケにこだわりたい気持ちは理解はするが、最大野党で持ち時間がもっとも多い(といっても19分しかないが)立憲民主党の枝野代表が、その貴重なリソースを全てモリカケに充てたことは全くもってゲンナリさせられた。米朝首脳会談が近づく中での外交安保、膨張が止まらない社会保障など重要懸案が山積みというのに、予算委員会でも散々やってきたというのに、なぜモリカケに全てを投入するのか。そんな芸当は共産党に任せておけばよいわけで、これではテレビカメラの前での印象操作狙いだけが目的だと思われても仕方がない。もはや政権交代を目指して政権担当能力をアピールする気が全くないことだけは、非常に明快になった。
一方、立憲の次の出番となった国民民主党・玉木代表は、モリカケを捨てたことが注目を集めた。産経新聞の電子版がやりとりを文字起こししているが、15分弱なのでYouTubeで全編ご覧になっていただいても負担感は少ないと思う。
特に見せ場は、安倍首相の対トランプ外交の失敗を取り上げたところだった。
「トランプ大統領と仲が良いとか、ゴルフを一緒にしたではなくて、言うべきことは言う、やるべきことをやらないと」
などと詰め寄り、日本が結果として、自動車関税制裁などの圧力をかけられた失態に苦言を呈したことは、政策的かつ本質的な弱点を付いたもので、党首討論らしさがあった。
そうした建設的に議論しようとする姿に、ネット上の右派を中心にしたアンチ玉木たちも「少しは見直した」といった声が結構多かったようだ。
玉木見直した。
今後玉木さんて呼ぶわ。— 曽我乃一悟 (@sogano15) 2018年5月30日
大嫌いだった玉木だけど相当見直した
— あ◯さん (@amazakke) 2018年5月30日
玉木さん偉いなぁ。変わろうとする意思を見せてる。
ボロクソいわれてる時から俺は書いてたけど玉木さんは福山さんや桜井さんと違って批判の時も丁寧だし政策も民進組では穏当な左派でまっとうな部分多くて嫌いな政治家じゃなかったのよね。 https://t.co/UMYjSrCJlV— もへもへ (@gerogeroR) 2018年5月30日
「是々非々」路線という意味では、維新にとってポジショニングが近くなった格好だが、足立さんもそれなりに評価していた。
上手いな。
玉木さんが通商にフォーカスしたのは、旧同盟系の考えに沿ったもので、分かりやすかった。
一方の片山虎之助維新代表は、放送と通信の融合を進めたい安倍総理に対し、総務省の既得権の立場から意見するものであり、維新の方向に反する。
党内論議を求めたい。https://t.co/LX4BX8trzn
— 足立康史 (@adachiyasushi) 2018年5月30日
グーグルトレンドで党首討論に出た4人の野党党首の検索状況を調べてみると、最後に登場した片山氏が、14時52分に瞬間風速的に検索量の最多をマーク。しかし、片山氏が盛り上がったのは、この時間帯だけで、1日平均では、玉木氏がもっとも多く、定量的にも一定の存在感は示せたようだ。
そうした検索の動きは、終了後に、安倍首相が握手をしに歩み寄ったこともあって、ツイッターでは、発信力のある安倍首相支持層の間で話題になったこともあるのかもしれない。もちろん、そうしたシーンは、55年体制的な“対決型”を好む野党支持層にはウケがよくない。自民党を毛嫌いする野党支持者には早速こきおろされている。
玉木雄一郎が政治家として人間として終わったなと思った瞬間。魂売っちゃだめでしょ、玉木さん。 https://t.co/Qkx7vZFxqn
— PassyKis (@passykis) 2018年5月30日
やはり、モリカケを捨てることは、野党の左傾ポピュリズム化が著しかったトレンドにあって、とても「勇気」が要る決断だったと思う。しかし、国民民主党としては、ここで怯んでしまうかどうかが最初の踏ん張りどころだ。
民進党の昨秋以降の分裂で、ここ数年の左派色の強い議員たちが立憲へと出て行ったことで、左派的な支持層の顔色をうかがう必要は着実に薄れた。それでも、これまで民主党系の政治家たちの多くはマーケティング感覚が鈍く、党内やブレーンから左派色から脱して差別化する提案があったとしても、二の足を踏み、結局、予定調和の左派路線に終始して「埋没」してきた印象が強い。
そういう意味では、昨日の党首討論でモリカケを捨てた決断は、一見小さくみえる一歩でも、今後のポテンシャルを引き出す上で、大きな意義があったのではないか。
先日、池田信夫が『国民民主党が生き残るたった一つの方法』で指摘したように、失うものはもうないのだ。社会保障問題や世代間格差是正のようなブルーオーシャンへ、どこまで振り切って近づくことができるか。より大胆なチャレンジへ、きのうの小さな成功体験を生かすも殺すもこれからが本番だ。