在京キー局各社の2017年度決算資料に載っている各社の年度平均視聴率やタイム収入、スポット収入、番組制作費などを用いて、現在のテレビ局、テレビメディアの状況を分析しています。
これまで「視聴率編」、「CM収入編」、の二本の記事を公開しています。
最終回は、各局の番組制作費と視聴率、CM収入の関係を分析に加え、連結決算も見てみます。
前回に使用したグラフをベースに違うところに着目しました。
(グラフ⑫)
局によって視聴率の変化の折れ線より、番組制作費・CM収入が下回っているところと、上回っているところに分かれます。視聴率の折れ線より費用が下回る良い状態を緑、上回る危ない状態を赤で表しました。
経営管理の優等生 日テレ
視聴率より番組制作費が下回っている代表が日本テレビです。日本テレビはリーマン・ショック後、急激に番組制作費を減らした後も同じ水準で推移させています。他局が視聴率を下げている中、日本テレビだけは下がらないため相対的に優位となりCM収入が増えているものの、番組制作費は増やさずに抑制されています。優良な緑のエリアがずっと続いている状態です。
「日本テレビの一人勝ち」と言われますが、高視聴率だけではなく、経営管理上のコントロールが非常に効いているところも高く評価されているのではないでしょうか。
少し危ないテレ朝
テレビ朝日もリーマン・ショック後、番組制作費は視聴率を下回り、緑のエリアができました。しかし緑エリアは縮小し、6年後には逆転しました。2012年度にはG帯(ゴールデンタイム)視聴率で1位を獲ったのですが、その後は下落が続いて危険な赤いエリアが拡大しています。2016年度のCM収入は、視聴率をかなり上回ったのですが、番組制作費はさらに上回る状況となっているので注意が必要でしょう。
ニュートラルなTBS
TBSは3つの数値の変化が連動しているように見えます。緑のエリアも赤いエリアもありません。視聴率やCM収入の変動に、番組制作費を最も柔軟に対応させているともいえます。
私がTBSの管理会計部門に在籍していたとき、予算編成の際に、視聴率に基づくCM収入予測と制作費予算が連動する仕組みができたのですが、それが今でも効いているのかもしれません。
ここで踏ん張れるかテレ東
テレビ東京もここ数年はテレビ朝日と同じような状況で赤いエリアが拡大しています。
しかしバラエティー番組でヒットが続いているので、テレ東が得意な、安い制作費でユニークで話題になり視聴率もとるという番組を作るという独自路線を頑張れば、改善していくのではないでしょうか。
右下がりの赤いエリアの面積が最大なフジテレビ
フジテレビは2012年度以降、視聴率もCM収入も下がっていくのに、番組制作費が下がらない、もしくは下げるスピードが追いついていない状況が長い期間続いています。
視聴率より収入・制作費が上回る危険な赤いエリアが小さくならずに続いています。しかも右下がりという悪い方向に広がっています。
ここで踏みとどまれるかどうか。おそらく解決策はこれまでフジテレビが歩んできた成功体験の中にはないでしょう。全てをリセットしてこれまでの経験則を捨て去り、新たな冒険に飛び込めば、再び浮上できるかもしれません。
こうして視聴率・収入・制作費の変化をみると、経営管理が効いている局とそうでない局がはっきりわかります。
最も効率的に視聴率を稼いでいる局は?
次のグラフは、1%の視聴率を生み出すのに必要な制作費の局別の推移です。各局の各年度の番組制作費を年度平均P帯視聴率で割りました。数値が高いほど効率が悪く、下の方に行くほど安い制作費で視聴率を稼いでいることになります。TBSは間接費が配賦されているので比較できないため外しています。
(グラフ⑬)
テレ東の特技
一番効率的に、安い制作費で視聴率を稼いでいるのはテレビ東京です。
テレビ東京は、制作費も安いのですが視聴率も低く、あまり評価されていませんが、実は単位あたりの視聴率を最も少ない制作費で獲得しています。これはもう特技と言っていいのではないでしょうか。
5Gに移行する今後、ネットでは素人動画ではないプロ・レベルの動画の需要が爆発的に増えるでしょう。少ないお金でより多くの人に見てもらえるコンテンツを作る能力は、今後、ますます重要になるに違いありません。
最も改善した日テレ
日本テレビは2006年度には最も高く、つまり効率が悪かったのですが、リーマンショック時の制作費の大削減を契機に、8年間、同一水準を維持しています。
大丈夫か?テレ朝
テレビ朝日は当初は3番目でしたが、2012年度あたりから効率が悪くなり始め、2017年度は明確に日本テレビより上回ってしまいました。お金をかけて視聴率を獲得するという戦略をとっているように見えるのですが、それがこの4年間ほど裏目に出続けています。
がんばれ!フジテレビ
フジテレビは2012年度から急激に上昇し、この4年ほどは他局と大きく乖離してしまっています。視聴率の下落に伴うCM収入の下落が続く中、利益を生み出すために懸命に番組制作費の削減を続けているのですがそれが追いつかないという悪い状況から抜け出せずにいます。ただ2017年度は番組制作費の削減を一段と進めたことと、視聴率の下落幅が減ったことで、改善しています。この調子で視聴率が下げ止まりから上昇に転じ、なおかつ番組制作費の抑制も続けば、フジテレビの復活につながるでしょう。
連結決算でも日テレの凄さが見える
最後に各社の2017年度・連結決算の数値を見ます。
まず売上・営業利益・営業利益率です。
(グラフ⑭)
売上1位のフジテレビだが
売上ではフジテレビが6465億円と飛び抜けています。2位の日本テレビの1.5倍以上もあります。ところが営業利益は2位で、1位の日本テレビの半分にも届きません。当然ながら営業利益率を見ると3.9%と、キー局5社の中で最も低くなっています。この3年間、利益率は3%台で5位が続いていますので、営業利益率の悪さは常態化しているといえます。
日テレの凄い利益率
これに対して日本テレビの利益率は12.0%と圧倒的に高くなっています。その他の局は5~6%前後ですから、日本テレビの利益率は飛び抜けて良いといえます。日本テレビの前年2016年度の利益率も12.6%、その前年も12.8%です。リーマン・ショック後の2010年度以降、この8年間はずっと10%以上をキープしています。大したものです。
悪名高い不動産部門を見てみよう
よくTBSは『赤坂不動産』、フジテレビも不動産屋などと揶揄されます。
キー局5社の中で不動産部門の売上・利益を公表しているのは、日本テレビ、TBS、フジテレビの3社だけなので、この3社の売上から見てみましょう。
(グラフ⑮)
フジテレビは不動産部門と言わずに、都市開発事業と呼んでいます。売上高も最も高く1089億円と全体の16.8%を占めています。TBSははるかに少なく158億円で全体の4.4%、日本テレビは99億円、2.3%しかありません。わずかこれだけの売上でTBSを『赤坂不動産』と呼ぶのは言い過ぎのような気もします。
しかし、利益面を見るとガラッと印象が変わります。
フジとTBSはやはり不動産部門の利益貢献が大
不動産部門の利益についてはフジテレビが最も多く141億円、次いでTBSは79億円、日本テレビは32億円です。『ただ連結営業利益に占める不動産部門の利益の割合は、日本テレビは6.5%しかないのに対し、TBSは42.3%、フジテレビは半分以上の56.1%となっています。フジテレビとTBSにおいては、不動産部門の利益への貢献度は極めて大きいといえます。
本当は放送部門の売上・利益も比較したかったのですが、局によって事業のセグメント内容が異なり、できませんでした。
不動産部門の利益率では、TBSが50.1%、日本テレビが33.2%、フジテレビが13.0%となっています。TBSの不動産部門は極めて高い利益率で、連結営業利益に占める貢献度の高さに繋がっています。
しかし不動産事業はあくまでおまけです。フジテレビは都市開発事業として力を入れているようですが、テレビ・ラジオ・新聞・出版などのメディア事業との関連性やシナジーが明確ではありません。TBSもフジテレビも、本業のメディア事業で売上・利益を伸ばせるような将来計画を立てるべきです。
公開された各局の決算資料からそれぞれの局の置かれた状況などを分析してきました。決算資料にか今後の方針や今年度、2018年度の展望なども書かれていますが、もっと大きな大局的な未来ビジョンが見たいものです。
先日、機関投資家の方々と話す機会があったのですが、彼らが知りたがっていたのは、ネットに押されていいところのないテレビに、どんな明るい未来の話題があるか、でした。
4Kテレビや5G、音声認識端末、IoTによって、テクノロジーもビジネスも生活も激変していく未来を、どう切り開いていくのか、どんな企業になろうとしているのかの明確なビジョンを、視聴者にもユーザーにも社会にも株式市場にも説明することが今、求められています。
このシリーズで公開した記事
編集部より:この記事は、あやぶろ編集長、氏家夏彦氏(元TBS関連会社社長、電通総研フェロー)の2018年6月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はあやぶろをご覧ください。