6月になり、大学生の就活シーズンが本格到来した。ちょうど1週間前の木曜(5月31日)、ビズリーチが大学1、2年生向けに社会人から人生やキャリアについて話を聞く新企画をスタートするというのでの広報からのお誘いで取材…(と言うには、おこがましいので正確には)見学に行ってきた。
先に告白すると、実はこのお誘い、当初は乗り気ではなかった。私は、城さんや常見さんのようなキャリアの専門家ではないし、大学生の就活事情にさほどの関心もなく論評する自信もなかったからだ。
しかもビズリーチの創業期から存じていた割に、大学生向けのサービスを2年前からやっていたことも知らなかったくらいで、ちょっと意外な驚きもあったのだが(南社長、ごめんなさい…汗)、大学1,2年といえば自分のような氷河期世代ですら、のほほんとキャンパスライフを謳歌していた。ましていまの売り手市場のご時世なわけだから、いまの学生はそれだけ意識が高いのか、あるいは何かを焦る事情があるのか、次第に、ある種の時流を探ってみたくなった。
意識高い系の集まり⁈「オトナのおせっ会」
まずイベントの概略から。「オトナのおせっ会」と銘打たれた企画は、パナソニックや野村総研などの一流企業の中堅・若手社員から、外資コンサル出身で現在は独立した人まで、錚々たる5人の社会人(男性3、女性2)がボランティアで“おせっ会員”と呼ばれるメンターを務める。
大学生のほうは、「ビズリーチ・キャンパス」(以下BC)に登録する1、2年生45人がすぐに申し込み、当日は37人(1年生が16人、2年生が20人、1人が不明)が参加した。
ちなみにBCは、大学生のOB・OG訪問をネットを使ってマッチングするサービス。利用する3万人超の学生は3、4年生や大学院生などの就活学年が大半だが、少数とはいえ1・2年合わせてすでに約1700人いるのに驚く。ていうか、この日、参加した顔ぶれの中には学生起業した強者もいるから、まさに「意識高い系」の集まりだ。
ただし、意識が高いのは確かだが、同社は「決して就活の早期化を促そうというものではない」(広報担当)という。では、企画のコンセプトは何か?
どんな生き方、働き方をしたいか社会人と話して考える
同社が2019年度卒業予定の学生421人に尋ねたアンケートによれば、「大学1・2年生の頃から、今後の人生やキャリアについて気軽に相談できる社会人の先輩がもっと欲しかったと思いますか」という問いに対し、「思う」がほぼ半数。「どちらかといえば、思う」を合わせれば9割近くが、早い時期のコンタクトを要望。そこで、「大学1、2年生から自分がどんな生き方や働き方をしたいのかを考えることが、本質的なキャリア選択の在り方ではないか」(小出毅・新卒事業部長)という問題意識から企画が生まれたようだ。
公務員の親から同じ道を進められているという早稲田2年の女子学生に話を聞いてみると、「公務員のほうが向いているかもしれないが、民間でやってみたい気持ちもあって、まず実際はどうなのか話を聞きに来た」と、将来像を描くための手がかりを探しにきたようだった。
人一倍、意識が高くなってしまうのは卒業後の未知なる世界への不安からだ。社会人1人ずつを学生が5グループに別れて取り囲み、それぞれ経験談を聞いたり、質疑応答もあったりしたが、あるグループを覗いてみると、女子学生が「産休や育休はどれくらい取れるのか?」と、切実に問いかけていた。
そして、氷河期世代の私なんかが実感するのは、この20年の産業構造の急激な変化にどうキャリアパスを適応させていくかの課題だ。このあたりは我々の世代が適応に失敗・苦慮してきた経緯も念頭にあってか、いまの学生は鋭い。この日はBUSINESS INSIDERの記者も来ていて、その取材に応じた慶応2年の女子学生は「社会が変わっても生き残るために、自分で力を持ち、変化に対応しないといけない。どう対策すればいいか、幸せになれるのか」と話していたようだ。
ネット時代だからこそリアルで判断材料を提供する価値
一方で、“LINE世代”の彼らの就活が、我々の時代と決定的に違うのは、スマホやSNS普及をはじめとしてインターネットが生活ツールとして当たり前になった情報環境。企業で働く人たちの口コミサイトも増えて、情報だけは取得しやすい。が、メンターの一人で、外資系企業勤務の20代男性は「いまの学生は選択肢が増えた分、迷いも生じている。何か判断の基準となるものが必要になってきた」という見方を示す。
その意味では、ネット時代だからこそ、直接、社会人と学生が直接リアルで語り合う場づくりの意義は逆に大きくなっているのかもしれない。実際、学生との懇談の場に耳を傾けてみると、女性のメンターが「よく大手企業のオジさんたちは動きが鈍くてダメみたいなことを言われるが、全然そんなことはなかった」と語る。
また、前述の学生起業した男子学生が、パナソニックでM&Aを担当する磯貝和範さんに「投資判断をする際に経営者のどこを見ているのか」を尋ねたのに対しては「成長性や収益性なども大事だが、なぜその事業をやっているのか信念が大事」と語り、実例として、“ふんどし”を新しいファッション事業として取り組むスタートアップのメンバーが職場でもふんどしを身につけて過ごしている話なんかを紹介する。やはり実務に基づいた話は、学生には良い刺激になるはずだ。
ちょうどこの取材をした頃に日経が1面で2日にわたり「就活異変」を連載。人材争奪戦の様相や、雇用慣行の実態に合わない労働市場の見直し、薄れゆく就社意識といった課題をあらためて投げかけていた。マクロの課題としては自分も認識はしていたが、ビズリーチが別にリリースした学生への調査結果によると、2019年卒業予定の学生の9割近くがインターンシップを経験済み。そのうち半数が「5社以上」で体験したというから、いまや実地型の企業と学生の接点づくりは当たり前で、様変わりしたと痛感する。
「2030年型」人材像育成と絡めるとさらに面白い
ここからはキャリア問題の素人なりの提案なのだが、インターンシップをさらに発展させ、大学や高校のプロジェクト型学習を融合してみてはどうだろうか。現役社員と交流するのは当たり前で、なおかつ中長期の事業や企画を実地でやってみると、OECDや文科省あたりが2030年に必要な人材の要素として挙げている「主体性・多様性・協働性」を備えた学生を育てられるし、当然、企業が有能な学生を早期にスカウトする機会にもなる。
「オトナのおせっ会」では「AI」や「人生100年」といった流行の話題も出ていたが、LINE世代のキャリアプランは、正解のない時代らしい混沌とした不安はつきまとう。
それだけに学生たちが「座標軸」をみつけるきっかけを、大人(企業)が既存概念にとらわれないかたちで示すことができるか、問われる時代になってきたのではないか。