韓国の文政権の進める雇用政策が色んな意味で熱い。
最低賃金を思い切って引き上げた結果、むしろ低所得層が大ダメージ被って格差拡大というニュースは日本でも話題となったが、文政権は合わせて労働時間の引き下げも行うとのこと。
【参考リンク】なぜ国民を経済実験の対象にするのか=韓国(中央日報)
7月に施行される週あたりの勤労時間の短縮も国民相手の政策実験となる可能性が高い。企業は混乱しているが、雇用労働部はまだ明確な指針も出せていない。こうした状況で金栄珠(キム・ヨンジュ)雇用労働部長官は「準備はうまくいっている。施行してみて補完する部分は補完する」と述べたのはあきれる。国民は生半可な政府の政策の実験対象でない。「地獄への道は善意で舗装されている」という。最低賃金引き上げと勤労時間の短縮という「美しい」政策のために一時的な対策が続き、結果的に財政が破綻するようなことにならないか心配だ。
筆者は当初、文政権は「最低賃金を上げれば弱者は潤うはず」と単純に信じていただけだと見ていたが、案外と分かったうえでやっているのかもしれない。とすれば、彼らが行おうとしているのは格差是正ではなく成長戦略だ。
新興国にキャッチアップされる中で先進国が経済成長を続けるには、どんどん生産性の高い産業を生み出していくしかない。家電や自動車でアジア勢に追い越されてもグーグルやアップルといった世界規模のハイテク企業を生み出し続けるアメリカが典型だ。
でも、慣れ親しんだ職を捨ててイケてる企業でホワイトカラーとして働いてね、というのはなかなか強制しづらい。勉強も必要だろうし、何より本人にその気がないとどうしようもない。
そういう時に、最低賃金を思い切って引き上げるというのは、意外に有効な政策かもしれない。生産性の低い業種で働くことを規制することで、いやでも賃金も生産性も高い職に移らざるを得なくなるためだ。
実は日本の官僚や経営者の中にも同じ考えの人は結構いて、メディアでもしばしば発言している。
【参考リンク】格差の超簡単な解決策は最低賃金引き上げだ(東洋経済オンライン)
彼らは巧妙に「労働者はもっと報われるべきだ」というオブラートで隠してはいるが、「もっと努力しろ。気合い入れて働け」というのが彼らのホンネだ。
さて、韓国の話だが、労働時間の引き下げがそれなりの規模で行われるとすれば、企業は正社員を増やさざるを得なくなる。労組は本音では嫌がるだろうけど、結果としてワークシェアリングが進むだろう。「生産性の低い産業から高い産業へ人を移す」のが彼らの狙いなら、一定の効果はあるかもしれない。
ちなみに筆者自身はそういう統制経済みたいな政策には反対だ。人間はそれほど単純には出来ていないので、お上の計画通りには動いてくれないだろう。そもそも、労働者は自分で働きたい場所で自由に働ける方が長い目で見れば幸福なはず。
でも日本にもそういう政策の支持者がいる以上、韓国文政権の「自国民を対象とした壮大な人体実験」には注目しておいて損はないだろう。
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2018年6月11日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。