10日に投開票が行われた新潟県知事選挙は、自・公与党の推薦する花角英世候補が勝利する結果となりました。
私自身は選挙を制した花角候補、あと一歩届かなかった池田千賀子候補のどちらにご縁があるわけでもなく静観していましたが、結果を見て思うのは本稿のタイトル、この一言に尽きます。
もっとも私自身は現地に足を運んだわけでもなく、特定候補への思い入れというよりは支持を決めかねている無党派的な立ち位置で眺めていました。ともすれば情報弱者の部類かも知れません。
今回の当落を分けた要素を語れる立場ではありませんが、それでも幾つかの観点で比較を積み重ねていくと「これだったのかな」と思うところがあります。
両候補の資質はどうか?
当選した花角候補は元副知事、あと一歩及ばなかった池田候補は市役所勤務を経て柏崎市議(3期)、新潟県議(1期)と地方行政の第一線を経験したうえでの出馬。地方自治の経験値はどちらも遜色なかったと私は見ています。
政治的な争点はどうだったか?
当初は原発政策が争点として浮上しましたが、一方は反原発、もう一方は将来的な脱原発。明確な争点にはなり得なかったというのが私の感想です。
そもそも選挙のきっかけが現職知事の辞職によるものなので、現状の維持か、それとも否定かと政策の是非が問いにくい。それぞれ一定の支持層には訴えても、無党派層を揺り動かすものではなかったと見ています。
ネット上の発信はどうだったか?
そもそも無党派という存在は「ぜったい、この人に入れる」という強い思い入れがあるかというと、そこまではないでしょう。
自分から情報を取りに行く人はまずない。おのずと、流れてくる情報が自分にとって「ピンとくるかとうか」が関心の分かれ目になります。
そしてそれは、良し悪しではありません。むしろ好き嫌いに近い。
そうなると、どちらが好ましい発信を増やしていったかが流れを左右することになります。
あくまでも外野の肌感覚ですが、サポーターや勝手連の熱量は池田陣営の方が高かったと感じています。
もっとも両候補の本陣はというと、大きな差は感じられず、どちらもそれなりと私は感じました。
プロフィールもある、政策もある。SNSもツイッターにフェイスブック、Youtubeと、ひと通りは両陣営とも整っている。それでも、「候補者の本気」を感じさせるまでのコンテンツは、私のリテラシー不足ゆえか、どちらにも見つけられませんでした。
本来は候補者の分身であるべき発信の大半が「どうせ、係の人の発信でしょ」と思わせてしまう。
実に勿体ないことです。
中にはキラリと光る投稿も幾つかありましたが、「これ、他の人にも教えたい!」思わず衝き動かされるまでは至りませんでした。
何が分かれ目になったのか?
候補の資質も、政策も、そして各々のインターネット発信もそれほどの差が見られない。
そうした中で分かれ目になったものは何か。
私が感じたのは、野党連合の応援が無党派層を見ていなかった、あるいは見えていなかったという事実です。
詳細に掘り下げたら私の論も心得ちがいな点があるかも知れませんが、少なくともネット上で引っかかる野党連合の応援はどこまで本音の応援だったのか。真に応援たりえていたのか。甚だ疑問です。
たとえば「安倍のバカなバカ騒ぎ」とは評論家・佐高信氏の弁です。
「もう腐った男はいらない」とは法政大学教授・山口二郎氏の弁です。
こうして引用するのも嫌な気分になりますが、目の前の観客相手だけならまだしも、本来味方につけるべき無党派層はそこにはいないのです。ネットの向こう側にいるのです。
そして無党派層の大半は、そうした断片情報で嫌悪感を示すことはあっても、賛同することはないでしょう。
クラスや職場に置き換えてみればわかります。誹謗や中傷しか口にしない人と、一緒に仕事をする気になるでしょうか。
何かを一緒にやろうと思えるでしょうか。
そこに統計や細かな分析は必要ありません。私なら嫌です、御免こうむります。
たとえ応援するべき候補がどんなに立派でも、です。
さらにつけ加えるならば、本来「新潟県をどうするか」が本義であるべきはずの知事選にもかかわらず、応援の向こうには各党の「政権打倒への前のめり」が透けて見えた。
いくら選挙に関心の薄い層でも、肌感覚でそうした嫌な感じを抱いたというのは言い過ぎでしょうか。
ならば、野党連合はどうすれば良かったのか?また惜しくも敗れた池田陣営はどのような発信をすればよかったのか。
これについてはアゴラ編集長の新田哲史さんが、見事な指摘をされていますが、誹謗や中傷の応酬は、はっきりいって相手の票を減らす要因にはなりません。むしろ、本来応援するべき候補の票をも減らすマイナス要因になります。たとえ勝手連でも、です。
本当に無党派層の支持を集めたければ、候補者の本気を愚直に示し続ける。
応援する弁士も勝手連も、いたずらに対立候補の批判をするよりも、応援する候補のよきところを最大限に表出させていく。
それが一番です。
もしも野党連合が今回の敗戦を糧としたいならば、見ているようで実は見えていなかった無党派層をしっかりと見ること。それに尽きます。
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高橋 大輔 一般財団法人尾崎行雄記念財団研究員。
政治の中心地・永田町1丁目1番地1号でわが国の政治の行方を憂いつつ、「憲政の父」と呼ばれる尾崎行雄はじめ憲政史で光り輝く議会人の再評価に明け暮れている。共編著に『人生の本舞台』(世論時報社)、尾崎財団発行『世界と議会』への寄稿多数。尾崎行雄記念財団公式サイト