メキシコは早速米国に報復する輸入関税を引き上げ、適用開始した

白石 和幸


トランプ大統領の米国が欧州連合(EU)、カナダ、メキシコに対し鉄鋼とアルミニウムの輸入関税率を10%から25%に引き上げることを5月31日に発表したことを受けて、最初にその対抗措置を取ったのがメキシコであった。

トランプ大統領の思考は単純明快だ。「安価な商品の輸入は米国の産業を後退させ、雇用の喪失を生む」という考えである。彼はそれを是正するための適切なる措置を取っていると思っている。しかし、その措置に相手は対抗手段を取って来るということに気づいていないようである。そして、その負の影響は最終的に彼自身ではなく、米国民がその高いツケを払わされることになるという輪廻の原則を彼は無視しているようだ。

北米自由貿易協定(NAFTA)についても、トランプ大統領の脳裏には新しい合意を結ぶという考えはもともとない。それは大統領選の時から明白にしていた。この協定を破棄したいのがトランプの本音である。それが可能となるように、彼はカナダそしてメキシコと個別に2か国での協定を結びたいとして両国にそれを仄めかしている。しかし、カナダもメキシコもその意向には関心を示していない。

また、メキシコ政府はこの協定を大統領選挙がある7月1日までに合意したいと当初望んでいた。しかし、今では次期大統領がこの協議を継続することになるであろうという考えに変化している。3か国の間で交渉が膠着しているからである。

次期大統領としてほぼ確実視されているのはオブラドール(通称アムロ)で、彼は左派系の議員でトランプ大統領の強圧的な姿勢に真っ向から対抗して行く構えを見せていることから、NAFTAが素直に合意に至ることは難しくなる可能性がある。

その様な背景を抱えているのが現在のメキシコである。そこで、11月30日に任期満了となるペーニャ・ニエト大統領は将来のメキシコの進展を次期大統領に託したいという気持ちもあるのか、今回のトランプ大統領の身勝手な輸入関税率の引き上げに時を移すことなく、早速対抗措置を取った。狙いはこの関税率の引き上げでメキシコが被る損害を米国からの輸入商品に対し輸入関税率を挙げて、補填することである。

その補填であるが、鉄鋼とアルミニウムの米国の関税率引き上げはそれを米国に輸出していたメキシコの鉄鋼とアルム業界では年間ベースで20億ドル(2160億円)に相当するインパクトを受けることになるとしている。即ち、この関税率の引き上げで、メキシコからこの2製品の米国向けが25%程度減少すると予測しているのである。

しかし、メキシコの鉄鋼業界では年間2000万トンの鉄鋼製品が生産されているが、その内の330万トンが米国に輸出されているだけであるという。自動車産業が盛んなメキシコでは鉄鋼製品の重要は充分にある。

しかも、メキシコは米国に対し17億ドル(1840億円)相当の輸入超過国になっていることから、米国側の輸入関税率の引き上げで、米国向けの輸出が仮に減少すれば、それは輸入超過額を減らすことに貢献するという皮肉な結果をもたらすことになる。

しかし、それでも両国の貿易取引のインパクトを補填させて貿易の均衡を維持するために、メキシコ政府は米国から輸入する50品目以上に対し関税率を引き上げることにした。

鉄鋼関連商品15-20%、チーズとバーボンウイスキー20-25%、ジャガイモ、リンゴ、コケモモ20%、豚肉20%などである。この適用は米国が不当な関税率の引き上げを停止するまで続けるとした。

特に、豚肉については2010-2017年の間の米国産の輸入は全輸入豚肉の89.2%を占め、国内消費の33.3%を賄っていたという。

メキシコ政府はこの機会を利用して米国以外の国からの輸入を積極的に検討しているという。というのは今年末までに35万トンの豚肉の無関税による輸入枠がまだあるからである。カナダ、オーストリア、ニュージーランド、デンマーク、チリ、スペイン、フランス、ドイツ、イタリア、ベルギーなどからの輸入をメキシコの豚肉輸入規定を満たすことを条件に検討しているという。

メキシコの豚肉食品連合のゼネラルマネジャーアレハンドロ・ラミレス氏はその中でもスペインとデンマークからの輸入を有力視している。スペインの豚肉とその加工食品の生産力はヨーロッパで最大規模にある。因みに、2017年度の米国からの豚肉の輸入は80万3000トンで、金額にして14億ドル(1500億円)だった。

トランプ大統領の横やりで、米国の豚肉輸出業者はメキシコ向けの輸出が大幅に減少することを覚悟せねばならなくなるであろう。