パナマの前大統領が米国からついに送還。現大統領の復讐か

パナマの前大統領リカルド・マルティネリ(写真左)が6月11日に米国からパナマに送還された。フアン・カルロス・バレラ大統領(写真右)のパナマ政府からの要請を米国が受け入れての送還である。その容疑は公金横領、脱税、スパイ活動の実施などである。

マルティネリは2015年1月にパナマを離れ米国に在住していたが、2017年9月にパナマ政府からの要請を受けて逮捕され、マイアミの刑務所に収監されていた。

その間、マルティネリは米国での亡命を申請していたが却下された。彼は米国で逮捕された時から、これらの容疑は現大統領バレラの復讐によるものだと指摘している。復讐の最終目的はマルティネリをパナマの政界から完全に失脚させることであるという。

マルティネリは来年5月のパナマ市長選か総選挙に立候補する意向であることが彼の代理人ルイス・エドワルド・カマチョによって明らかにされている。

ところで、マルティネリがマイアミで収監されていた時から指摘しているバレラの復讐の動機について現地紙『LA ESTRELLA.COM』『telemetro.com』が説明していることを以下に要約しよう。

マルティネリが民主変革党(CD)から大統領になった時(2009年)に副大統領のバレラは首相、副大統領、パナメニスタ党の党首、次期大統領候補と4つのポストを担っていた。復讐の発端は、バレラが副大統領と首相の重責を充分に担っていないとして、マルティネリはバレラに野党に戻ればよいといって彼を解任したのである。解任という名誉を傷つけられたバレラは「私を黙らすことなどできない」と言って激怒したという。これが両者の亀裂の発端であった。

2014年5月の大統領選を控え、同年1月に報道メディアの役員の会合があり、これ以後マルティネリ大統領の治世を否定した批判することだけの報道に集中することで合意されたという。それに参加した民主革命党の有力人物の一人がそのように語ったそうだ。狙いは、マルティネリが所属する民主変革党の候補者ミミト・アリアスを当選させないためであった。

更に、マルティネリの陣営に不利となっていたのは有力な企業経営者がバレラに選挙資金を出して支援していたのである。

また、バレラはカトリック教会とも手を結んだ。バレラが副大統領の時にカトリック教会に1200万ドル(13億円)を寄付していたのである。また、スペインで誕生したカトリックの有力宗派オプス・デイはバレラの選挙キャンペーンに300万ドル(3億2000万円)を提供したという。

バレラが報道メディア、企業、カトリック教会などから支援を貰っても、マルティネリの資金力はそれ以上のもので、議員を買収していた。毎月の選挙予想でもマルティネリの民主変革党のミミト・アリアス候補が常に支持率ではトップで33%、次に民主革命党のファン・カルロス・ナバッロが32%、バレラは26%であった。

ところが、開票結果はバレラ39%、アリアス32%、ナバッロ28%という順位となったのである。バレラの勝利には予測と得票結果の間に13%の開きがあったのである。民主変革党は開票結果が疑わしいとして投票の点検を要求したが、それを一票一票確認するのではなく、コンピュータで確認する方法を選挙管理委員会は選択したという。

2014年7月からバレラが大統領に就任。それを起点にマルティネリを政界から失脚させることを企むバレラの工作が始まるのであった。

一方のマルティネリは米国マイアミの刑務所に収監されてからは本国への送還を避けるべく、彼が最後に選らんだ手段が彼が米国のCIAに協力していたことを手紙に告白して、これだけのことをCIAに協力したのであるから情状酌量して米国での亡命を認めるように要望したのであった。しかし、CIAは逆に一国の大統領がCIAの協力者であったということが公にされて迷惑だと感じたのか、如何なる反応も示さなかった。

それも覚悟して、マルティネリは本国に送還されるのであれば1905年に両国で合意された内容に則って送還されることを望むとした。即ち、米国の法廷が彼の逮捕の容疑にしたのはスパイ活動を行っていたということであった。送還されても、パナマの法廷ではこの罪状でしか裁くことができないということである。公金横領や脱税での容疑で裁くことは出来ない。

彼がCIAに協力した出来事の一部を以下に少し紹介しておく。

キューバを出港した北朝鮮の船がパナマ運河を通過する際に停止させるようにCIAから要請を受けた。彼自身も船に乗り込んで検査。その結果、武器、ミサイル、飛行機、レーダーなど国連が北朝鮮に制裁を科して禁止されている物資ばかりが検出された事件。

イタリア・ミラノで活動しているCIAの元チーフがイスラム系のテロリスト数名を殺害したという容疑で指名手配されていた。インターポールでも要注意人物とされていたが、結局コスタリカで捕まった。彼を安全な手段でCIAに引き渡すようにマルティネリに要請があった。イタリア大使館やそれ以外にも関係当局から邪魔しないように恐喝されたが計画通りCIAに彼の身柄を引き渡したそうだ。

パナマはCIAの資金援助によってモニター管理が実施されているという。この管理システムのお陰で資金洗浄、テロリズム、麻薬売買を防止している。米国連邦捜査局(FBI)が管理している犯罪者や注意人物の顔のデーターを基に認知システムがトクメン国際空港でも採用されて数千人をこれまで逮捕されている。

国連ではパナマはイスラエルと常に一緒の投票内容を実行した。その影響で、アラブ諸国、特にヒズボラからはパナマはペルソナ・ノン・グラータとされた。

一方のバレラは大統領になって、昨年100年以上続いた台湾との国交を断絶して中国との外交関係を結んだ。勿論、それは利害関係からである。マルティネリ大統領の政権時では一切これは案件に挙がっていなかったようだ。