16日にNHKは「国債の取り引き 不成立相次ぐ 日銀の大量購入で品薄に」というタイトルのニュースを流していた。日本国債がNHKニュースに取りあげられることが珍しいが、ここにきての日本の債券市場の流動性の低下が市場関係者以外からも危惧されてきた現れではなかろうか。
NHKニュースでは「国債の取り引きを仲介する日本相互証券によりますと、取り引きが成立しない日は、去年は1年間で2日でしたが、ことしはすでに5日と2倍以上に増えています。」と指摘していた。
自分でカウントしていなかったが、今年に入っての10年債を主体にカレント(直近に発行した銘柄)の出合いのない日がこれまで以上に多いことは感じていた。特にマイナスの利回りとなっている2年と5年の中期ゾーンのカレントは出合いのない日が多い。
日銀は21日に、債券市場参加者会合(6、7日開催分)の議事要旨を公開した。ここでは「前回会合以降、円債市場の機能度・流動性の状況に大きな変化はみられない」との意見も出ていたが、国債の価格発見機能が失われている点も指摘されていた。さらに「各社とも円債の部署に人材を投入しなくなっている」、「証券会社を中心に市場参加者が減少し始めている」との指摘が市場関係者から指摘された。
市場の厚みが失われているだけでなく、債券市場の人材の厚みも縮小されている。それでなくても債券市場は債券村と呼ばれるように、やや専門性が高い市場であり、市場で価格が動かず、国債の価格発見機能が失われ、その結果、市場動向の読みといった経験も機会も失われていることは危惧する必要がある。
市場参加者からは次のような要望が日銀に寄せられていた。
「将来の「出口」を念頭に置くと、市場参加者のノウハウが失われるような事態は避けるべきだと思う。そうした観点からも、金利がある程度動くような柔軟な調節運営を行ってほしい。」
私は先日、メディアの取材を受け、債券市場が大きく動いていたときの経験談を話させてもらった。金利は動くときは動く。どのように動いてきたのか。それに対処するにはどうすれば良いのか。そこには経験が物を言うという主張をしたが、いまはその機会が失われている。
デフレの期間について、安倍政権と日銀は1989年から2013年までとしたようだが、長期金利から見れば1989年から2%以内での推移が続いて、2013年からは今度は人為的にゼロ%近くまで抑え込まれている。物価目標を達成するためとして、我々が本来受け取れるはずの利子が押さえ込まれ、結果としてその分、政府の財政を助ける格好となっている。この期間に失われたのは金利だけでなく、金利を決める債券市場の機能そのものであり、市場参加者の経験も失わせ、人材そのものも消失しようとしている。このような環境が続くなり、さらに悪化するなどした場合には、日銀が出口政策など取れるものではない。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年6月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。