W杯展望:セネガルの速さと日本人の敏感遺伝子

杉山 崇

W杯コロンビア戦勝利と次のセネガル代表戦への危機感

W杯ロシア大会,西野監督率いる日本代表チームがコロンビア戦に勝利したことで次のセネガル代表戦が注目されています。アジア勢初の南米からの勝利ということもあり,日本だけでなく世界がこの勝利に驚き,称賛の声が世界中から届きました。

ただ、監督も選手たちも歴史的勝利に酔いしれることなく,すぐにセネガル戦を考えていたようです。勝利を称えるインタビューで西野朗(あきら)監督は「(この勝利は奇跡としては)小さい」と答え,決勝点アシストのヒーロー本田圭佑(けいすけ)選手も次戦への危機感を訴えました。

驚異の身体能力と爆発的なスピード

日本代表にとってセネガル代表の最大の脅威はアフリカ系チーム特有の強力な身体能力,特に爆発的なスピードです。これは日本代表が歴代苦手にしているものでもあります。

セネガル代表の第1戦ポーランド戦でも2点目はその縦への速さが注目されました。このポーランドの失点は一旦フィールド外に出たFWニアン選手が突然戻って意表を突かれた不運なものですが,結局は時速32.6キロメートルと言われるスピードにDFもGKも対応できなかったことが得点につながっています。

エースのFWマネも英プレミアリーグで2分56秒でハットトリックを達成した記録を持つ高速ストライカーです。時速31キロメートルを超えるスピードを誇ります。一般のサッカー選手のスピードは時速30キロメートル未満と言われています。万一縦のスピードで勝負するシチュエーションを作られたら,一瞬でゴールを奪われてしまうことでしょう。

驚きやすい日本人の脳

では日本代表はなぜアフリカ系チームの速さを苦手とするのでしょうか。この理由は様々な角度から考えられますが,一つの可能性として速さに驚いてしまうことが考えられます。人は驚くと動きが止まります。実は日本人は物事に敏感に反応しやすい遺伝傾向が世界一高い民族です。見慣れないものごとに接したり,不慣れな状況に陥ると脳が驚いてしまって、動きが止まりやすいのです。

もちろんプロの選手ですから,アフリカ系選手のスピード未経験というわけではありません。しかし,日本人の多くは不慣れなものに驚きやすい脳を持っているので,アフリカ系選手のスピードに普段から慣れていないと,やはり驚いてしまうことでしょう。十分にトレーニングしているとは言え,対応が一瞬遅れてしまうことはあり得ることです。このことがアフリカ系チームへの苦手意識の一因になっていたのではないかと考えられます。

驚かなければ対応可能

ここから,セネガル戦への一つの展望を持つとしたら,セネガルのスピードに対しての心の準備が重要だと言えるでしょう。見慣れないと不慣れが驚きにつながります。逆に言えば慣れてしまえば驚かないのです。西野ジャパンは経験豊かな選手が揃っているので,すでに慣れていると思われますし,心の準備の大切さもすでに心得ていることでしょう。

セネガル代表も全てが速いわけじゃない

また,速い,速いと言われるセネガル代表ですが,全てが速いわけではありません。縦へのスピードが早くても情報の処理速度,すなわち考えるスピードはまた別です。コレクティブ(組織的)に動くスピードもまた別です。どちらも日本代表が勝負どころとしてきたスピードではないでしょうか。

西野ジャパンがセネガル代表のスピードに驚かずに冷静に対処して,セネガル代表にはない別のスピードで競り勝つと面白いゲームになりそうですね。厚く応援したいと思います。

杉山崇

神奈川大学人間科学部教授・心理相談センター所長

心理学者・心理マネジメント評論家

脳科学と融合した次世代型サイコセラピーの研究やTV・雑誌などマスメディアでの心理学解説で知られる

 

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