夜明け前が一番暗い。日本の太陽光発電最前線

太陽光発電の国内最大級の見本市「PV  Japan」が6月20日から22日までの3日間、横浜みなとみらいのパシフィコ横浜で開催されました。

日経新聞は、その様子を「陰る太陽光 消えた中国勢 国内市場縮小、見本市活気なく」として22日の朝刊で報じました。以下はその一部抜粋です。

世界で再生可能エネルギーの利用が広がっているのとは裏腹に、見本市は盛り上がりに欠ける。国内市場の縮小を背景に、中国勢や昨年注目を集めた米テスラが出展を見送り、企業数の減少が続くからだ。国内勢も住宅向けの展示に偏り、太陽光パネル業界の苦境を映している。

何を隠そう、私が代表を務める株式会社電力シェアリングはこの見本市に出展しました。以下の写真は私のブースを訪れていただいたアジアでマイクログリッド事業を開発しようとしているシンガポールのNanyang工科大学のNarasimalu博士と一緒の写真です。

日経新聞の記事は半分は本当ですが、半分は事実ではありません。確かに、記事にあるように太陽光パネルの国内出荷量は2014年の900万kWをピークに減少傾向にあり、2017年は600万kW弱と漸減傾向にある(日本太陽光発電協会調べ)のは事実です。

これに伴い、見本市来場者数もかつてよりは減っているのかもしれません。その意味では「太陽光が陰っているように見える」と新聞記者が思ったのは、まあ納得できます。実は、私その記事書いた記者多分知っています。彼(彼女)なりの考えがあって書いたのでしょう。

では、なぜ、国内出荷量が漸減しているかというと、産業用の固定価格買取制度(FIT)価格が1kWhあたり18円と2012年の40円の半分以下に下落したこと、加えてメガソーラーに向いている土地はあらかた開発し尽くされて、別荘地の斜面など乱開発の域にまで達していることがあります。

産業用の太陽光パネルの9割はスペックでは劣るが価格が安い中国製でしたので、中国勢が見本市に出展を見送ったのはまあ合理的な判断でしょう。でも、「だから何なの?取り立てて新聞記事にすることなの?」という感じです。

一方で、住宅用も42円から28円に下落していて、こちらの方も確かに既設住宅の屋根に設置しようというイノベーターな顧客をあらかた獲得し終わって、一息ついたというところなのでしょう。

しかし、考えてもみてください。一口に600万kWと言いますが、これはものすごい量です。原子力発電所一基の出力が大体100万kWなので、昨年一年間だけで原子力発電所が6基できた、過去5年間で34基できたわけです。これはものすごい量です。屋根の上に太陽光パネルを載せている住宅は何と200万世帯。この10年間で、200万世帯、一世帯3人として600万人が家族会議開いて、太陽光パネルを載せる決断をしたというのはものすごいシンドロームです。これは、一般的にバブルと言います。ITバブルが去ったようにFITバブルが終焉したのです。

そこで皆様にご同意いただきたいのは、ITバブルが終わって光通信株が暴落したけれども、IT革命は起きて、人々の生活をガラリと変えたということです。今やパソコンやスマホなしには仕事も遊びも廻りません。太陽光も同じです。一年の出荷量が600万kWに落ち着いたというか、まだそんなに出荷されている方が驚きで、これだけ太陽光が入ってくると電力システムに影響を与えないわけがありません。

昨年、エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジという本が出版され、業界で話題になりました。電力システム改革のドライバーは5Dすなわち、自由化(Deregulation)、脱炭素化(De-carbonization)、分散化(Decentralization)、デジタル化(Digitalization)、人口減少(Depopulation)に集約されます。詳細は本書をお読みください。

で、私が申し上げたいのは、「見本市は盛り上がりに欠ける。」というのは一面的なものの見方にすぎないということです。確かに来場者の絶対数は昨年比で漸減したのかもしれない。しかし、問題は、その質です。冷やかしで来る素人さんが明らかに減り、眼光鋭い玄人筋がどでかい商売の種を探しに歩き回っておられました。

私のブースにも、「え、何でこんな大企業の人が来るの?、え、何で政令指定都市のお役人が事業のネタを探しに飛び込んで来るの」という驚きの連続でした。

守秘義務があるので、具体的な詳細は控えますが、玄人筋の方々は4つの大きなトレンド、それらは共鳴し合うのですが、を追いかけていらっしゃいました。その中心にいずれも太陽光発電があります。

第一のトレンドは、電力システムの流動化です。送配電網はとどまっているというのが、世間の常識であります。しかし、IoTの世界では、送配電網は流動化して行きます。比喩的な意味でなく、本当に流動化するのです。で、動き回るものだから、それをきちんと追いかけ続ける必要があります。そのために「動き回るグリッド」をコネクト(C)する必要が出てきます。

第二のトレンドは、自動化(A)です。みなさん電力システムは自動化されていると思っておられるかもしれませんが、ベッタベタな労働集約産業です。常に人がへばりついていて、保守・管理をしています。ただみなさんの目に止まらないだけです。IoTの世界ではほぼ全て電力システムが自動化されていきます。

第三のトレンドは、シェア経済(S)の電力システムへの浸透です。IoTの世界では、電力もシェアできてしまいます。例えば、鈴木さんの家の屋根で太陽光発電をして、自宅で作りきれなかった分を隣の田中さんの家に分けてあげるなんていうことが実際に起きていきます。日本では大人の事情で簡単ではないのですが、再来年にドイツでそれが起きるとここで私は予言して起きます。そして、日本人は洋物に弱いので、FITをドイツから輸入したように、シェアリングもドイツから輸入することになります。これも予言して起きます。でそれを技術的に可能にするのがブロックチェーンです。これを6つ目のD(Dis-intermediation)とでも言います。電力の取引コストが今の1万分の1ぐらいになります。

第四のトレンドが、今までは手動で行っていたものが電動化(E)されます。例えば、老人ホームでは、介護作業のほとんどの人手、(入浴介助は排泄物処理、移動付き添いなど)がロボットに置き換わり、アマゾンの集荷センターではほとんど無人化されていくでしょう。ロボットの動力源は電力です。付け加えると、自動車やバイクも遅かれ早かれ間違いなく電動化していくでしょう。そういえば見本市にも何台か電気自動車が展示されていましたね。

で、勘の鋭い読者なら既にご案内の通り、この頭文字を並べるとCASEになります。これは、自動車業界のゲームチェンジのキーワードで、もともとは、2016年9月に行われた「パリモーターショー2016」で、メルセデス・ベンツが、「CASE(ケース)」と名づけた中長期戦略を発表したことに由来するのですが、ディーター・ツェッチェ ダイムラーAG取締役会会長 兼 メルセデス・ベンツ・カーズ統括が「EQ」について「移動手段としてのクルマの存在意義を拡張し、特別なサービスと体験する、まったく新しいモビリティである」と述べたと紹介していてが、その「存在意義の拡張」を包括的に実現する「CASE」は、自動車の在り方や概念を変える革新的なプランでもあるとしています。詳細はこちらの記事をご覧ください。

まあ当たり前といえば当たり前なのですが、電力IoTとモビリティIoTに境目なんてないんですよね。だから、電気事業と自動車産業の将来像を別々に論じることはあまり意味のないものです。

日本が乗り遅れて中国とシリコンバレーが勝者となったグローバリズムは終わろうとしていて、ローカリズムを原理としたCASEという世界を一変させる社会変革が日本とドイツで同時多発的に起きようとしていて、その中心にあるのが分散型太陽光発電システムだということです。だから中国企業は退散して言ったのです。それを悲観的に書く記事の心情が私には理解できません。むしろ喜ばしいではないですか。

でも、素人さんにそんなことを言ってもわからないから、「PVJapan2018」の本質的意義は理解できないので来場者は増えなかったということです。でも明治維新に匹敵する日本の夜明けが見えてきていて、だからやたら目つきの鋭い人々(実際にIT革命前夜に跋扈していた人種が電力産業にどんどん入ってきています)がダイヤの原石を見つけに歩き回っていたゴールドラッシュ状態の「PVJapan2018」でした。坂本龍馬がいたら泣いて喜ぶでしょうね。「日本の夜明けぜよ」状態でした。現場からは以上です。