住宅ローンを変動型金利で借りる人が急速に増えていると3日に日経新聞が伝えた。住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)によるアンケート調査によると、変動型の割合が固定型を5年ぶりに上回ったそうである。
このアンケート調査によると、変動型金利で借りている人の割合は、10年前は2~3割だったが、その後2011~2012年度に5割を上回った。しかし、日銀が異次元緩和に踏み込んだ2013年4月以降は物価上昇に伴う将来の利上げを警戒する心理が働き、固定型の金利で借りる人が増えた(日経新聞)。ところがここにきて再び変動型が増加してきた。それは何故なのか。
お金を借りる際に固定金利タイプにするか、変動金利タイプにするのか。特に住宅ローンのように長期間にわたり、個人にとっては巨額の資金を借り入れる際には、なかなか悩ましいところとなる。これは資金を貸すという点で裏返しとなるものの、個人向け国債を購入する際に5年や3年の固定金利タイプにするのか、10年の変動タイプにするのかという選択と似たところがある。
原則論で言えば金利が低いときには、将来の金利上昇に備えて固定タイプで借りるということになる。しかし、住宅ローンを借りるタイミングを金利の動向に合わせてというのは難しいため、ローンを組んで住宅を建てるタイミングでの将来の金利動向を予測しての選択となる。
変動型金利で借りている人の割合が10年前は2~3割だったが、その後2011~2012年度に5割を上回った。これは世界的な経済金融危機が影響したためか。リーマン・ショックや欧州の信用不安を受け、欧米の中央銀行や日銀も含め、強力な金融緩和政策を推し進めることになった。日本の長期金利は低下し1%を割り込み、日銀の政策金利はほぼゼロ%近くに低下した。住宅ローンの変動タイプは主に短期金利に連動することから、固定金利より変動金利の金利の低さとともに、金融不安が簡単には解消しないとの見方も変動タイプを選択させたのではないかと思われる。
しかしその後、世界的なリスクの後退局面で、日銀は2013年4月に異次元緩和を決定し、物価を上げようとする姿勢を強めてきた。急激な円高調整と世界的なリスク後退のタイミングでもあったことで株価も大きく戻してきた。このタイミングでは、債券市場関係者はさておいて、一般には物価と金利の先高感が強まっていたとしてもおかしくはない。現実に消費者物価指数はプラスに転じるなどしたこともあり、このタイミングでは金利の低いうちに固定金利で借りようとの動きが強まったと思われる。
しかし、日銀が結果として長短金利操作付き量的・質的緩和という各種合わせ技で金融緩和策を講じても物価はいっこうに上がらず、短期金利はマイナスとなり、これがいつまで続くのか検討がつかなくなっているのが現状となった、そうなると現在の日銀がそう簡単に政策金利を引き上げることはできないとの認識も強まる。将来の金利上昇の可能性はあるかもしれないが、当面は低い変動金利で借りていても問題はないのではとの認識も働いて、再び変動金利型が増えてきているのではなかろうか。
日経新聞はもう一つの要因としてローンの借り換えが増えていることも指摘している。ローンの借り換えとなれば期間はさほど長くはなく、変動で借りても期間による金利上昇リスクは低いとの認識か。
それでは現状、住宅ローンは固定で借りた方が良いのか、変動で借りた方が良いのか。これは日銀次第ということになる。いまの日銀が行っている金融政策は、長短金利操作付き量的・質的緩和であり、主な変動金利に影響を与える短期金利と、主な固定金利に影響を与える長期金利の両方を操作しているためである。
いったい日銀はこの政策をいつまで続けるのか。それは政治の問題とも絡んでくることもあり、かなり不透明感も強く、現状は多少の微調整はあっても、金利を大きく引き上げることはできないとの見方が強い。それでも10年、20年先の金利まで見通せるわけではなく、将来的な金利上昇リスクを考慮すれば、固定の方が安心ではある。
ちなみに私は個人向け国債について固定タイプと変動タイプのどちらが良いのかという選択について、それが発行された当初から、将来の長期金利の上昇を期待して変動タイプが良いと答えてきた。しかし、結果として長期金利の上昇は限られ、固定タイプの方が利息面では有利となったケースが多かったのではないかと思われる。つまり裏返すと、15年あたり前からみると住宅ローンは変動タイプで借りた方が良かったのではということになる。
しかし、現状の長短金利差は、ローン金利なので短期のマイナスはありえないとして、0.1%少々となり、微々たる差である。将来長い目でみると、金利が上昇する可能性は十分ありうることを考慮すれば、固定タイプの方が安心であるとは思う。これも結局は日銀次第ということになるのだが。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年7月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。