「東京市場で果物売上高アップ!」が手放しでは喜べない理由

築地市場の野菜果物卸売場(東京都サイトより:編集部)

こんにちは!肥後庵の黒坂です。

「東京市場で15年ぶりに果物売上高1800億円の大台へ」というニュースが発表されました。一時期、大きく落ち込んだ 東京市場における果実売上高が、15年ぶりに1800億円を超えたというものです。一見すると大変ポジティブなニュースに思えますが、深く見てみると実に複合的な事実が隠されています。

売上高増加の要因はミカン

日本農業新聞の記事によると売上高は直近4年間連続でプラスが続いています。2017年はキロ平均単価が408円と高値をつけたことと、生育順調で入荷量が2%増の44万トンとなったことが売上高を押し上げた主要因とされています。

日本農業新聞より

中でも売上高が大幅に上昇したのは「みかん」です。過去の記事「2018年みかん不作よりはるかに深刻な構造問題」で詳しく書かせてもらったのですが、昨年から台風被害や裏年の不作によりみかんの価格は急騰、「こたつからミカンが消える」と大きな話題になりました。

しかし、東京市場については不作のはずのみかんの入荷量が前年を上回り、なおかつ価格が上がっていたことで売上高を大幅に押し上げたとあります。日本全体で見ると流通量が下がり、価格が高騰したことでみかんの買い控えが発生したはずなのに…。なぜ、東京市場はみかんの売上高を大幅に伸ばすことが出来たのでしょうか?その理由を同紙では次のように解説しています。

「全体量が少ない時、産地は流通効率を考え、複数の市場に出荷せずに東京など拠点市場に出荷する場合が多い。その結果、東京市場の入荷量が増える傾向にある」と指摘。市場関係者は「産地の生産基盤の弱体化が、拠点市場に出荷が偏る傾向を強めている」

これはどういうことか?みかんの魅力が見直され、価格が高くてもそれを求める人が増えたことで売上をあげたというわけではないのです。そうではなく、流通量の少ないみかんが東京市場に集まったことで、“東京市場で”売上高アップになった、ということです。果物における売上高の指標として東京市場が取り上げられ、局地的な売上高アップとなっても、日本全体でそれが起こっているわけではないことに留意する必要があります。

今回の記事の見出しだけを見てしまうと、あたかも「果物が盛況で売上高を伸ばしている」とミスリードしてしまう可能性がありますので、数字の見方には注意が必要です。手放しで喜べるニュースではないわけです。

売上高を押し上げた新品種のフルーツたち

「ミカンの売上高アップが東京市場でしか起きていないのであれば、果物の売上高アップという今回のニュースはポジティブな要素がなかったのか?」と思われるかもしれません。もちろんポジティブな部分もあります。売上高アップになったのはみかんだけではないのです。

近年、急速に人気を集める新品種が売上を押し上げています。中でも突出した人気を誇るのが、種無し皮ごと食べられるシャインマスカットの売上高、こちらは51億円で29%もの増加となりました。また、いちごの高級ブランドの売れ行きも盛況で「とちおとめ」は161億円で6%増、「あまおう」は60億円で13%増です。シャインマスカットやブランドいちごは、日本全土で盛況ですからこれは確実にポジティブな話題といえます。

シャインマスカットやいちごは当店でも非常に人気の商品群で、多くのお客様に支持を頂いています。新品種のフルーツが登場することで、これまで関心がなかった人たちを振り向かせる力があるのです。

課題は安定供給

フルーツに限らず、農業を取り巻く大きな課題はズバリ、安定供給です。果物は天候や災害などの栽培環境で価格の変動や品質を左右されてしまいます。台風が吹けば実が落ちて数日で価格が高騰し、栽培は生産者の経験とカンに頼らざるを得ない、という「天候と生産者次第」の構図になっています。

自然の恵みの結晶であるフルーツは後継者不足や天候不順という問題を抱えています。事実、フルーツを取り巻く構造的な問題に生産量の落ち込みがあります。どのフルーツも長期的に見ると右肩下がりになっているのです。

画像引用元:果物ナビ

安定的な品質と、栽培する状況を構築できればこの状況を改善出来る可能性は大いにあるのです。それを実現するのは、ITやロボットといったテクノロジーだと考えています。世界第2位の果物輸出額を誇る、フルーツ輸出大国オランダでは少人数で大規模栽培を実現していますから、日本に出来ないわけがないと思っています。

すでに無人トラクターなどもありますから、徐々にその実現に向けての動きはありますが、コスト面などでまだまだ課題は多いのです。

今回のようなニュースは見出しだけでなく、記事の内容を多面的に見ることで真実や課題が見えてくるのです。