EUが報復関税に狙い撃ちしたバーボン、救世主はミレニアル世代と…

投資家の間で「歴史は繰り返さない、韻を踏む」というマーク・トウェイン氏の名言は、余りにも有名ですよね。ミシシッピ川やケンタッキー州の飛び地を愛した南部出身のトウェイン氏は、こんな言葉も残しています――「何事もやり過ぎは禁物だが、良いウイスキーの飲み過ぎは辛うじて十分と言える」。彼の言うウイスキーにはもちろん、ケンタッキー・バーボンを含みます。

そのバーボンは、欧州連合(EU)が6月22日に発動した報復関税28億ユーロ(約3,600億円)の対象品目となりました。中西部ウィスコンシン州に本拠地を置くハーレー・ダビッドソンが製造するバイク、南部フロリダ州が生産するオレンジなど、2016年の大統領選でトランプ氏を選出した州を直撃する品目の一つです。

米国内でバイク離れに直面し海外の売上比率が約40%を占めるハーレー・ダビッドソンは、欧州による報復関税回避を狙い、一部工場の米国外移転を発表しました。しかし、バーボンとなればそうはいきません。バーボンの定義として1)最低2年間の貯蔵、2)原料となるトウモロコシが51%以上、3)アルコール度数160プルーフ(80%)以下で蒸留、125プルーフ(62.5%)以下で樽詰め、80プルーフ(40%)以上で瓶詰め、4)水は金属など不純物を含ませない――などに加え連邦法で「米国産」と定められているためです。

バーボンは、生産の95%を担うケンタッキー州を中心に米経済を支えてきました。同州での蒸留酒製造所の就労者数はITバブルと金融危機の景気後退期を除き増加を続け、2001~15年の週当たり賃金上昇率は平均4.4%と全米の同2.7%を大きく上回ります。ケンタッキー州の蒸留酒製造所の設備投資が占める全米のシェアは37%と、少なくとも2002年以降で最高を記録しました。

米国内での需要増も、ケンタッキー州経済を潤しています。米国蒸留酒会議によれば、米国でのバーボン・米国産ウイスキーの消費額は2015年に前年比7.8%増の29億ドル、過去1ヵ月以内にこれらを飲酒したアメリカ人も同9.8%増の2,392万人と記録を更新中。2010年代からの消費の伸びが著しく、ビールの消費量減少を踏まえるとミレニアル世代がバーボンとウイスキーを愛飲している可能性は捨てきれません。そのミレニアル世代と言えば、アルコール普及率は72%で、アルコール別ではバーボンを含む蒸留酒が53%と、ビール(51%)とワイン(37%)を上回っていました。

ケンタッキー州を中心とした蒸留酒製造所にとって問題は、欧州の報復関税発動でバーボン消費が減速するか否か。EU向けバーボン輸出額は、スコッチより手頃とあって2017年に前年比20%増の1.59億ドルでした。ただ、バーボン輸出額に占めるEUのシェアは2008年の64.2%から2017年に43.0%まで低下しているんですね。

米国産バーボンの国別、輸出額。


(作成:My Big Apple NY)

その陰で2014年にジムビームを買収したサントリーの影響もあり、日本がバーボンの輸入シェアを拡大中で2013年の6.2%から18.0%へ上昇しました。蒸留酒製造所の目下の課題は、米国内のミレニアル世代と日本人に「飲み過ぎ」てもらうためのマーケティング戦略強化となりそうです。

(カバー写真:Thomas Hawk/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年7月12日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。