北の「瀬取り」で浮き彫り:在日国連軍地位協定の危うい将来(特別寄稿)

潮 匡人

昨2017年9月に採択された国連安保理決議(第2375号)により、いわゆる「瀬取り」は禁止されている。「瀬取り」とは、北朝鮮籍船舶に対する(または北朝鮮籍船舶からの)洋上での船舶間の物資の積替えを指す。たとえばガソリンや軽油などの石油精製品を洋上で積み替えて、密輸入する。国際社会が見逃してはならない違法行為である。

ところが、その、あってはならないはずの「瀬取り」が、わが国の近海で頻繁に繰り返されている。

米国連代表部が国連の北朝鮮制裁委員会に送った報告書(7月11日付)によると、北朝鮮が今年1月から5月末の間、「瀬取り」を、少なくとも89回にわたり繰り返した。「背取り」で石油精製品を積んだタンカーが89回、北朝鮮西部の南浦(ナムポ)や日本海側の元山(ウォンサン)などに入港したという(NHK報道および7月14日付「朝日新聞」朝刊記事)。

北朝鮮は国連安全保障理事会の制裁決議などで厳しい輸入制限が科されているが、こうした「瀬取り」が、決議の「抜け穴」となっている。この「抜け穴」をふさがないかぎり、制裁の効果は限定的なものに留まってしまう。

国際社会は一致団結して「抜け穴」をふさぎ、北朝鮮への圧力を最大限まで高め、北指導部の政策を変えさせなければならない。日本としても「米国や韓国のみならず、中国・ロシアを含む国際社会と密接に連携しながら、「瀬取り」への対応を含め、国連安保理決議の実効性を確保していく必要」がある(防衛省、以下同)。

北朝鮮船籍タンカー「AN SAN 1号」と船籍不明の船舶による瀬取りの現場(防衛省サイトより:編集部)

そこで「防衛省・自衛隊としても、海上自衛隊が安保理決議違反が疑われる船舶の情報収集をしており、関係国と緊密に協力」している。先日(6月29日)も、北朝鮮船籍タンカーと船籍不明の船舶が、東シナ海の公海上で横付けしていることを海上自衛隊が確認したばかりだ。

両船舶は横付けし、ホースを接続していた。日本政府は「瀬取り」を実施していたものと「強く」疑っている。ちなみに「東シナ海の公海上」は「上海の南南東約350㎞の沖合」らしい。ならば当該「船籍不明の船舶」が中国船であった可能性も強く疑うべきではないだろうか。

ここでは以下の問題に絞ろう。以前も当欄で指摘したとおり、わが国は「情報収集」活動はしているが、それを超える「立ち入り検査」その他の実効的な活動を実施してない。憲法(解釈)および関連法制が自衛隊の手足を縛っている。このため海上自衛隊は「瀬取り」を現認しても、関係機関に通報するだけ。自ら手を出そうとはしない。

国際社会としては〝猫の手も借りたい〟ところであろう。ならば、誰が手を出し、制裁の「抜け穴」をふさいでいるのか。答えは以下のとおり。

まずは米国。加えてオーストラリアとカナダが哨戒機を派遣、在日米軍嘉手納飛行場を拠点に警戒監視活動を実施している。イギリスもフリゲート艦「サザーランド」などを(英国にとって)地球の裏側まで派遣し、国際社会に貢献している。

他方、日本は「こうした取組を歓迎し」、「関係国と緊密に協力を行ってまいります」と謳うだけ。あるいは、彼らに基地を提供しているだけ……。

問題は「こうした取組」(上記)の法的根拠である。案外知られていないが、これら関係国は「国連軍地位協定に基づき当該活動に従事」している、彼らは国連軍として活動している。

ご存知のとおり(朝鮮)国連軍は1950年の朝鮮戦争勃発を受け、創設された。当初、朝鮮国連軍司令部は東京に設立されたが、1953年7月の「休戦協定」を経て、1957年、ソウルに移動、日本には朝鮮国連軍後方司令部が設立された。後方司令部には「ウィリアムズ司令官(豪空軍大佐)他3名が常駐しているほか、9か国(オーストラリア、イギリス、カナダ、フランス、イタリア、トルコ、ニュージーランド、フィリピン、タイ)の駐在武官が朝鮮国連軍連絡将校として在京各国大使館に常駐している」(外務省、以下同)。

1954年6月には、国連軍地位協定が締結された。その第5条に基づき、朝鮮国連軍は「我が国内7か所の在日米軍施設・区域(キャンプ座間、横須賀海軍施設、佐世保海軍施設、横田飛行場、嘉手納飛行場、普天間飛行場、ホワイトビーチ地区)を使用することができる」。国連軍地位協定の締約国は日本以外に、オーストラリア、カナダ、フランス、イタリア、ニュージーランド、フィリピン、南アフリカ、タイ、トルコ、イギリス、アメリカ。だから上記のごとくオーストラリアやカナダの哨戒機が嘉手納飛行場を使用できる。

時事通信の報道によると、2017年に朝鮮国連軍が日本側に在日米軍基地の使用を事前通知した回数は27回(艦船14回、航空機13回)に上り、前年(15回)の2倍近くに急増した。豪州の潜水艦やフランスの情報収集艦も寄港したという。「昨年緊迫した北朝鮮情勢を反映したもの」(時事)であろう。時事はこうも警鐘を鳴らす。

「トランプ米大統領は朝鮮戦争終結に期待を寄せる発言もしており、将来的には国連軍の扱いも焦点の一つになる。撤退すれば日本が戦時に後方支援拠点になる国連軍地位協定は消滅するが、非核化実現のために北朝鮮に圧力をかける英国、オーストラリアなど米以外の国が警戒監視活動のため在日米軍基地を使用する権利も失われる。北東アジアの安全保障に影響する可能性もある」

加えて、そのとき日本は基地の提供すらしない国連加盟国となってしまう。日本は指をくわえて見ているだけ。手も足も出さない。基地も貸さない…。そうなれば、日本が国際社会でどう評価されるか。考えただけもおそろしい。