パウエルFRB議長は7月17日、米上院銀行委員会で議長として2度目の議会証言を行いました。前回通り金融市場にサプライズを与えることなく、つつがなく消化しています。冒頭に読み上げた原稿では、13日に公表された金融政策レポートに合わせ 1)経済と労働市場は良好、2)インフレ目標値の2%は対称的(一時的な上下の乖離をある程度許容する)、3)ゆるやかな利上げと保有資産の圧縮を継続、4)通商政策、並びに減税と歳出増の経済的効果を予想することは困難――と繰り返しました。
その他、質疑応答での注目ポイントは以下の通り。
質問:物価動向が賃金の上昇を吸収する可能性(シェロッド・ブラウン議員、民、オハイオ)
→2017年と比較し、概して労働者の暮らし向きは良くなっている。
質問:外銀への規制緩和を進めるのか(シェロッド・ブラウン議員、民、オハイオ)
→保有資産500億ドル以上という節目は維持され、変更を検討する予定はない(米国内で500億ドル以上の資産を有する大手外銀には、中間持ち株会社の設置を義務付け、米国の銀行持ち株会社と同様の健全性を求めている)。
質問:労働者が公正な賃金を得る上で、Fedはどんな役割を担えるか(ジャック・リード議員、民、ロードアイランド)
→米国だけでなく海外でも所得分配の低下は“問題(troubling)”だが、ほとんどの要因はFedの範疇外。賃金は労働者と雇用者の間で設定されるもの。減税は、賃金に影響を与えている。
質問:欧州連合(EU)は敵だと思うか(ジャック・リード議員、民、ロードアイランド)
→そうは思わない。
質問:労働者が力強い経済の恩恵を受けているようには見えないが(ロバート・メネンデス議員、民、ニュージャージー)
→物価上昇率が賃金の伸びを上回り実質賃金が低下するような事態は一時的で、物価は低下していく。そもそも過去を振り返ると、物価はFedの目標値2%を下回って推移する傾向があり、上方向にはない。一方でFedは、労働市場を長きにわたり支えてきた。今後、Fedは景気後退に陥らないよう、慎重を期して金融政策を運営していく。
質問:利上げを行う上で、コアCPIを注視していればよいのか、なぜ賃金は経済拡大期にも関わらず上昇しないのか(ボブ・コーカー議員、共、テネシー)
→中間層の所得が低迷していることが長きにわたって問題で、教育など構造的な問題を抱えている。生産性の改善こそ、長期的に賃金が上昇するカギだ。
質問:通商政策の不確実性や潜在的な経済的混乱が賃上げに影響しているのか、イールドカーブのフラットニングが与える金融政策の示唆とは何か(パット・トゥーミー議員、共、ペンシルベニア)
→不確実性が賃上げの動向に影響している可能性はある。イールドカーブについてFOMC参加者は協議を続けてきた。真に重要なポイントは中立金利で、イールドカーブから中立金利に向けて放つメッセージに注意を払っている。
質問:農作物価格の下落と貿易摩擦を受け農家が圧迫されているがどう捉えているか、オピオイド問題はどう考えているか(ジョー・ドネリー議員、民、インディアナ)
→農作物価格の下落は農家や地方経済に打撃を与えているが、通商政策はFedの管轄にはない。一方で、関税引き下げは経済に有用と考える。鎮痛剤痛を服用している状況だ。
――さすが元弁護士で、パウエルFRB議長の議会証言は通商政策を中心に尻尾をつかませない内容でした。冒頭の原稿にある通り「金融政策は誰にとっても謎であるべきではない」と明言しており、パウエルFRB議長率いるFOMCが利上げの方向を見つめていることは確実。とはいえ・・・引退を表明済みで反トランプ陣営のボブ・コーカー議員(共、テネシー)が議会証言中「最近のFedは退屈だ」とこぼすように、面白味に欠けるきらいは否めません。
パウエルFRB議長は、膠着する北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉や米国抜きで署名された環太平洋パートナーシップ協定(TPP)11などへの質問に明確な回答をせず。「概して、開かれた貿易は良いこと」と発言、貿易障壁のない、国際的な規則に基づく慣行が望ましいとの見解を示すのみでした。
唯一のハイライトは、働き盛り世代(25~54歳)の労働参加率、就労率の改善をめぐる言及が挙げられます。ベビーブーマー世代の引退を働き盛り世代が吸収しているとの考えを示しました。
(作成:My Big Apple NY)
経済が足場を固めながら拡大している証左と発言しており、通商政策など不確実性を抱えながらも、少なくともあと2回の利上げは妥当とみているようです。
(カバー写真:Federalreserve/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年7月18日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。