博報堂若手研究所リーダーの原田曜平氏は、「マイルドヤンキー」とか「さとり世代」といったいつも絶妙なネーミングやワーディングを発明しますが、その論考はすこし凡庸な気がしていました。けれども、新著の「若者わからん!」においては、正直に「若者がわからなくなった」と告白しており、とても興味深い書物に仕上がっています。
著者は今まで、若者の主張を代弁するような立ち位置でした。けれども、2018年に就職した「スーパーゆとり世代」とつきあうにつれ、その苛立ちはそうとうのものになりました。
若者を理解しないと企業が立ちいかなくなったと処方箋らしきものは提示していますが、全体のトーンとしては、若者バッシングのようにも見えます。それが著者の立ち位置の転換を示しており、それゆえに、読後感はとても痛快なのです。
著者は冒頭で、若者を取り巻く環境が劇的に変わったと述べています。有効求人倍率がバブル期を超え、若者が社会的“超”強者になったということです。バブル期越えの超売り手市場が出現した結果、著者の主宰する学生向けの研究会の凡庸なメンバーたちも「どの企業がいいか、原田さんなりの意見を聞かせてください」と自信満々に上から目線で相談してくる学生が増えているということです。
はたして、この傾向はつづくのか、来年あたり失速するとも言われている世界経済の景気後退によって社員がダブつき、「バブル第二世代」という時代のあだ花で終わってしまうのかは、私にもわかりません。(現在、働き方改革によって最高益を達成していると喧伝されてますが、私は世界的に景気がいいから最高益であると思っていて、因果関係がこんがらがっている気がします。)
しかし、私たち年長世代の常識が彼らにはまったく通じなくなっているということは、よくわかります。
その指摘は、たとえば、
無駄に自分をよく見せようとする!/仕事にたいする熱意が感じられない!/遅刻、ドタキャンが多く、言い訳もひどい!/個性が薄くつかみどころがない!/「男らしい男」が少ない!/「勘違い男」が増加/ブロックされるマウンティング上司/マザコン、ファザコンが多すぎる!
と筆者の心の叫びのようなものが感じられます。いぜんは若者擁護だったぶん、その叫びは痛々しくもあります。
もちろん、その対策もしめされています。
褒めて、おだてていい気にさせる/指導するときは若者目線に立つ/若者の習慣を受け入れる/若者の「納得感」を高める
といった、若者に「寄り添った」対応をすることを説きますが、どこか投げやりなように感じてしまいます。たしかに、時代は変わったのです。しかし、若手社員がここまでとくべつに大切にされてもビジネスが回るなら、今までの会社員の苦労はなんだったのでしょう。よほど日本の企業社会は、人材を大事にしない社会だったのでしょうね。
人手不足からAIが導入されても、日本の若者にとっては、今後の見通しは明るそうです。
それだけ数少ない労働者としての若者の価値は高騰してしまっており、次の元号でもそれがもっと高騰していく可能性があるからだ。
一寸先は闇な気がするのは、「若者わからん!」と思う老人の老婆心なのでしょう。若者の今を知るには、格好の一冊です。