日本企業の海外視察を成功させるには

鈴木 友也

colleen/flickr:編集部

日本企業がシリコンバレーで嫌われているというのは有名な話なのですが、同じようなことがヨーロッパでも起こってるみたいです。

日本企業は「お勉強」海外視察を撲滅せよ。日本人は相手の時間奪う意識が希薄

一番の問題点であり、その他の問題を引き起こす真因でもあるのが「目的意識の欠如」です。視察希望者の70%くらいは「こういうことをするために、こういう企業を訪問して、こういう話を聞きたい」といった、具体的な目的を持っていません。

受け入れ先の時間と人的コストを使って情報をもらっているにも関わらず、テイクばかりでギブができない。だから「また日本人か」と言われてしまう。なので最近は視察の依頼を断るケースさえあります。僕なりの「無駄な視察撲滅運動」です。

僕も海外研修のコーディネートをやらせて頂いたりするので、記事の吉田さんの気持ちはとても良く分かります。

ちょうど先週、某プロ野球球団の海外研修で西海岸にいたのですが、このアレンジでいろいろと思うことがありました。この球団はもうかれこれ10年くらい毎年ミドルマネジメント層向けに海外研修を実施しており、かなり視察慣れしているので目的の明確化やその後のTakeawayの活用方法などは組織内で十分検討のうえで視察を実施しています。今年は従来と少し趣向を変えて、スポーツの領域以外にも目を向け、西海岸のIT企業も視察先に加え、彼らのマネジメント手法や事業開発思考なども参考にできないかという話になりました。

アポイントメントの調整は、同じ競技どうし(日本のプロ野球球団がMLB球団を訪問するようなケース)なら比較的容易です。特に選手の日米交流があるような競技は既にスカウトどうしで協力関係があったりするので、相手側もよっぽど都合が合わない場合を除いてだいたい快く会ってくれます。競技が異なる(プロ野球球団がNBA球団を訪問するなど)と少し難易度は上がります。

今回、プロ野球球団がIT企業にアポを入れるということで、全く異なる畑に足を踏み入れることになりました。結果的に、AmazonさんとZapposさんの視察はできたのですが、それ以外にもいくつかのIT企業に面会依頼をしていたのですが、こちらは見事に断られてしまいました。

理由はほぼ共通してて、「自分の企業にとって面会する直接的なメリットがない」から。ここまではっきり言われると逆に気持ちいいですけど(笑)、先方としてはビジネスにつながる可能性があるか、それがない場合は拘束時間に対する従業員の収入逸失分を謝礼という形で補償しない限り、基本的に面会には応じてくれないようです。

東海岸だと、断るにしてもこう少し婉曲的に言ってくれたりするんですけど、やはりシリコンバレーに代表される西海岸のベンチャー気質は違うなぁと、変に感心してしまいました。こういうカルチャーは、終身雇用がまだ色濃く残ってて、時間と成果で生産性を厳密に管理しない日本ではピンと来ないかもしれませんが(なので、日本の大手上場企業がシリコンバレーを訪問するなどという場合が、実は一番危険なのです)。

Zapposさんなんかは、世界中から視察が殺到しているらしく、逆に視察・面会への対応を1つの事業にしてしまっています。Zappos Insightsという関連会社を設立してて、面会は30分で参加者一人につき250ドル、1時間350ドルで受け付けています。安くない金額ですが、これで向こうも訪問者をスクリーニングしているのだと思います(単なる興味本位の訪問者の排除)。まあ、お金で解決できるなら、ある意味コーディネーターとしては楽なんですけどね。ちなみに、今回は6名で訪問したので、1時間の面会に2100ドル(約23万円)支払いました。

それにしても、Zapposは衝撃的な企業でした。視察前にNDAにサインしているので、残念ながらその情報を共有することはできないのですが、完全な自由主義の裏に、それはそれはとてもとても厳しい成果主義が徹底されていました。ほとんど宗教団体のような企業でしたね。

海外視察を成功させるために会社としてやらなければならないことは、非常にシンプルです。とにかく事前に質問項目をできるだけブラッシュアップしておくことです。これは2つの意味で重要です。

まず、良い質問は、訪問先のことをある程度理解していないと出てきません。公式サイトを見て基本的な事業内容を理解し、自社との違いが何かのか考えてみるとか、財務情報をIRのページから入手して事業構成や売上比率を押さえておくとか、最低その位はやっておかないと良い質問はできません。英語が分からないなら、専門家を呼んで日本で事前勉強会をやっておくのもよいでしょう。

良い質問、深い質問を考えるためには、それなりの準備を強いられますが、まずはこれがとても重要だと思います。

2つ目は、ある程度詳細な質問項目を用意し、事前にそれを訪問先に渡しておけば、Right Personに面会できる可能性が高まり、場合によっては関連資料なども事前に準備してくれたりもします。1時間の面会としても、通訳が入れば実質的にヒアリングできる時間はその半分の30分しかありません。この短時間の勝負に勝つには、事前準備が欠かせません。1時間の面会なら、最低でも質問したい事業領域(大項目)に応じて各10個程度の大まかな質問項目(中項目)を用意し、できれば各質問項目をもう少し詳しく落とし込んだ具体的な質問(小項目)にまで整理できていたらベターです。

最悪なのは、「ざっとこんな感じの話が聞きたい」という風に曖昧に視察目的を伝え、「あとは現地で何とかなるでしょ」というスタンスで視察に臨むケース。こういう場合、いざ面会になっても「御社の基本的な事業内容を教えて下さい」みたいな、「そんなの自分で前もって調べとけよ!」(コーディネーターの心の声)というような質問をするため、経験的にあまりいい面会になりません。事前にお願いしていた質問領域と全然違う質問をしたりすると、そもそもそれに答えられる人が出席していないというミスマッチも起こりやすくなります。

逆に、深い話に至ったり、「実はここだけの話だけどね」というマル秘情報を教えてもらえたりするのは、向こうが「こいつらなかなか勉強して来てるし、その熱意に何とか応えたい」って思ってもらえるようなケースなんですよね。あとは、財務情報などの数値は向こうも敏感なので、質問する際に一方的に質問するよりは、「うちは総収入がX億円で、うちY事業の収入比率がZ%なんだけど、御社は?」みたいに聞くと、向こうも数字を言ってくれやすくなります。

僕は、1つの目安として「相手に“That’s a good question”と言われたら勝ち」という風にクライアントに伝えるようにしています。アメリカ人は自分が知らない事や、考えたことのないことを聞かれると大体「That’s a good question」と言うので、そこまで鋭い質問ができたらこちらの勝ちなのです。

あと、これはクライアントにはあまり話さないことですが、日本企業の立場からは「一期一会」なのですが、コーディネーターは視察先組織と日常的な接触があるケースが多いので、あまりにも雑な視察をする企業は連れて行きたくない、というのがコーディネーターの本音です。「こいつが連れてくる日本企業はロクなところがないな」と思われてしまったら最後だからです。

そうならないようにするには、1)少なくとも事前に十分準備した状態で視察に臨み、相手に失礼のない質問をする、2)できれば面会時に相手の参考になるような情報をこちらから提供することも心掛け、その場でギブ&テイクを成立させる、ことが重要になります。2)は理想ですが、そこまでできる企業はあまりないので、コーディネーターがクライアントに見えないところでギブ&テイクの関係を上手くバランスさせていることが多いと思います。そのようにして、自ら身を守ることができるかどうかも、コーディネーターの実力の1つと言えるかもしれません。

僕もいろいろな視察のお手伝いをしていますが、Outputを強いられた視察というのは、もう参加者の覚悟が全然違います。「とにかくここで何かを掴まないと帰れない」という決意があります。逆に、「お勉強」目的の視察だと、どうしても主体性がなくなりがちで、お客様気分(来たくて来たのではなく、会社に連れてこられた感)が抜けません。

まあ、現実には「期末で予算が余ったから」とか「いつも頑張ってるからご褒美で」といった理由で海外視察に来るケースもありますから、全ての視察をストイックに進めて行くというのは無理でしょうが、少なくとも視察先の時間を奪っているという感覚を持ち、失礼がない程度の準備はしておいて欲しいというのが、(僕も含め)多くのコーディネーターの心の声だと思います。


編集部より:この記事は、ニューヨーク在住のスポーツマーケティングコンサルタント、鈴木友也氏のブログ「スポーツビジネス from NY」2018年7月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はスポーツビジネス from NYをご覧ください。