ドイツの第1野党、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は、今年10月14日に実施されるバイエルン州議会選の選挙プログラムを公表し、その中でフランスの政教分離(ライシテ)に倣い「国家と宗教」の厳格な分離を要求している。バチカン・ニュースが18日報じた。
インターネット上で公表された同党の選挙綱領(100頁)の中で、「AfDは宗教団体への国家支援を容認しない」と強調し、国家がローマ・カトリック教会とプロテスタント教会との間で締結した「国家と教会の関係」を明記した政教条約の早期解除を主張、「国家はキリスト教関係者をもはや雇用すべきではない」と記述している。ドイツでは左翼政党も国家と宗教との関係ではAfDと同じ立場を取っている。
AfDの党の選挙プログラムの中では、キリスト教会を「特別なロビイスト」と呼び、「教会は国家から財政支援を求める点で他のロビイストとは異なる」と皮肉に述べ、「バイエルン州の納税者はもはや容認しない」と指摘している。
AfDの宗教政策を羅列する。①教会が難民を収容することを刑法に基づいて中止させる、②イスラム教徒とユダヤ教徒が実践する男子への割礼を禁止、③食用動物を麻酔なく屠殺する料理法を認めない、④公共学校でイスラム教の授業を中止、⑤役所での婚姻届けがない宗教的婚姻は、強制結婚や一夫多妻を防止するために禁止する、⑥全てのイスラム教共同体は国家に登録義務を有する、⑦イマームは外国から資金を得てはならない、⑧公的な場での金曜礼拝は認められない、といったものだ。
同時に、AfDは「わが党は基本法に明記されている『信仰・良心の自由』を無制限に認める」と確認する一方、「宗教の実践は国家の法に基づき人権やその価値感が一定の制限を受けることがある」と述べている
AfDのラインラント=プファルツ州議会のミヒェエル・フリシュ議員は18日、「わが党とカトリック教会との対話は終わる」と警告を発している。ドイツのカトリック教会中央委員会(ZdK)のトーマス・シュテルンベルグ議長が教会関係者に「AfDと一定の距離を置くべきだ」と呼びかけたことに対する反論だ。同議長は「AfD の政治家たちの民族主義的な発言は限界を超えてきた。AfDは民族社会主義的傾向を帯びてきた」と述べている。
フリシュ議員は、「わが党は昨年の連邦議会選でほぼ600万人の有権者の支持を得た政党だ」と指摘する一方、「シュテルンベルグ議長は、中絶を認め、胎児組織研究、代理出産、安楽死などの自由化を要求する政党に対しては口を閉じている」と述べ、メルケル首相の「キリスト教民主同盟」(CDU)への対応でZdKの主張に一貫性がないと批判している。
バイエルン州では「キリスト教社会同盟」(CSU)がこれまで州議会の過半数を掌握してきたが、支持者離れの傾向が見え出した。特に、反難民政策、反イスラム教を主張するAfDが州選挙で躍進する可能性が高まってきた。CSUはうかうかしておれないという危機感がある。そこでCSUはAfDより厳格な難民対策を実施し、有権者の関心と支持を得ようと腐心してきた。
独南部バイエルン州で6月1日を期して、州全ての公共施設の入口にキリスト教の十字架が掲げられるようになった。これはマルクス・ゼーダー州首相が4月25日、発令した政令に基づくものだ。ゼーダー首相らは厳格な難民政策を実施する一方、バイエルン州国民の愛国心に訴えている(「独バイエルン州で『十字架』が復活!」2018年6月2日参考)。
CSUは公共施設での「十字架復活」を実施し、伝統的な保守層を得ようと腐心する一方、AfDは反難民、反イスラム教、そして「国家と宗教」の分離を主張して有権者にアピールしているわけだ。どちらの政策が有権者の心をより掴むことができるか、注目される。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年7月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。