米国の“国連離れ”はやはり危険だ

長谷川 良

国連総会で演説したトランプ大統領(公式動画より:編集部)

グテレス国連事務総長は25日、職員宛てに「国連の活動資金が底をつきそうだ」という悲鳴にも似た緊急アピールの書簡を送った。事務総長によると、加盟国193カ国中、期日までに分担金を支払っていない国は81カ国にも及ぶという。それ自体、決して新しいことではないが、未払い国の中に最大分担金拠出国の米国が含まれていることだ。

米国は今年、全体の22%、総額5億9140万ドルの分担金を支払う義務を負っているが、それが遅れれば、国連の活動が難しくなるのは当然だ。事務総長は職員に経費の削減と節約を指示しているほどだ。

大統領に就任して以来、トランプ大統領は国連機関を「米国民の税金を浪費するだけで成果のない機関」として、これまで何度も批判してきた。批判だけではなく、国連教育科学文化機関(ユネスコ)から脱退する一方、国連人権理事会からも離脱を宣言したばかりだ。トランプ氏の下で米国の“国連離れ”は着実に進んできた。

①2017年10月、米国務省はパリに本部を置くユネスコから今年末までに離脱すると表明した。その理由は「ユネスコの政治化」だ。具体的には、ユネスコがパレスチナ自治区の「ヘブロン旧市街」をイスラム教の遺跡として世界遺産に登録したことに、親イスラエルのトランプ政権が反発した結果と受け取られている。

②トランプ政権は6月19日、スイス・ジュネーブに拠点を置く国連人権理事会からの離脱を表明している。ニッキー・ヘンリー米国大使は同日「政治的に偏見が強く、反イスラエル色が濃い」とその理由を説明している

③国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は7月25日、パレスチナ自治区で働く職員267人を削減すると発表した。トランプ米政権は今年1月、UNRWAへの拠出金の大幅凍結を明らかにし、昨年の3億6000万ドルから今年は6000万ドルしか拠出しないと発表している。米国主導の中東和平交渉にパレスチナ自治政府のアッバス議長が拒否していることに対するトランプ政権の報復の意味合いがある。

その他、トランプ政権は昨年8月4日、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から正式に離脱を国連側に通知。そして今年5月8日には、イランと米英仏中露の国連安保理常任理事国に独が参加してウィーンで協議が続けられ、2015年7月に合意した「イラン核合意」から離脱し、解除した対イラン制裁を再実施していく旨の大統領令に署名している。

ちなみに、欧州連合(EU)の盟主ドイツのメルケル首相は同月11日、米国のイラン核合意離脱について、「大きな懸念だ。核合意は理想からは程遠いかもしれないが、国連安保理事会決議で採択された合意を一方的に離脱することは正しくない。米国のイラン核合意離脱は国際社会に大きなダメージを与え、国際秩序への信頼を破壊している」と警告している。

以上、トランプ氏の大統領就任後の1年半余りの短期間で、2つの国連機関から離脱を表明し、国連安保理決議で採択された「イラン核合意」からも離脱を表明したわけだ。トランプ政権は明らかに反国連、国連離れ外交を主導していることが分かる。

興味深い点は、国連機関からの離脱の主因がイスラエル問題と密接に関連していることだ。反イスラエル色の強いユネスコや人権理事会から離脱し、パレスチナ人の救済に取る組むUNRWAに対しては兵糧攻めに出ている。「イラン核合意」離脱もイスラエルの安全問題と密接に関連がある、といった具合だ。

なお、国連国別分担率で中国は2019~21年の通常予算で日本を抜いて第2位になる予定だ。そうなれば、米中は国連の分担金で1位、2位となるわけだ。両国の違いは、“国連離れ”を見せる米国に対し、中国は世界制覇の野望のため国連を積極的に利用していることだ。

例えば、習近平国家主席が提唱した新シルクロード構想(一帯一路)を実現するため、北京は国連工業開発機関(UNIDO)を下請け機関として利用し、対アフリカ、バルカン諸国へ経済支援外交を展開させている。

中国主導の国連外交を考えると、トランプ米政権の“国連離れ”は戦略的に危険だ。米国は“国連離れ”ではなく、国連の改革にもっと関与すべきだ。「安保理改革」だけではなく、「国連の2院制」など抜本的な国連改革案はさまざまな専門家から出されている。同じ価値観を共有する国際機関創設も一つのアイデアだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年7月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。