アラフォー男子のeSports初観戦記

鈴木 友也

ここ数年、どこのカンファレンスに出ても「eSports」のワードを聞かない事はありません。コンサルタントとして「語るからには実体験せねば」ということで、機会があれば観に行こうと思いつつ、なかなか身近で開催している大会がなく機会を窺っていたわけですが、インターンのJ嬢に地元のBarclays Centerで開催されることを教えてもらい、ようやく初観戦に至りました。

観戦したゲーム

観戦したのはOverwatchという対戦型ゲームで、世界中に約4000万人のユーザがいるそうです(2018年5月現在)。Overwatchは2016年5月に米Blizzard Entertainment社が発売したゲームで、今年からMLG(Major League Gaming)と組んで「Overwatch League」(OWL)というリーグ戦を開始しました(ちなみに、Blizzard/MLGともにActivision-Blizzardという会社に保有されています)。

OWLは12チーム(米国9、韓国・イギリス・中国からそれぞれ1チーム。各チーム先発6名)から成り、1月から6月まではLAのBlizzard Arenaを拠点に公式戦を戦い、7月にプレーオフと決勝戦が開催される流れになります。公式シーズンは4ステージで構成され、各ステージでトップのチームに12万5000ドルの賞金が支払われるほか、公式シーズン全体の成績により2万5000ドル~30万ドルの報酬がチームに支払われるそうです。プレーオフは上位8チームが進出し、優勝チームには100万ドルの優勝賞金が提供されるなど、賞金総額は350万ドルとのこと。

今回観に行った試合は7月28日(金)に開催された優勝決定戦「Grand Finals」の1試合目で、優勝チームは翌日の第2戦の結果とのトータルで決まるようです。まあ、MLBに例えればWorld Series、NBAならNBA Finalsの初戦を観戦したというイメージです。

OWLは所属12チームが各都市にフランチャイズを置く閉鎖型モデルを採用しており、eSportsで一般的な昇降格制度を伴う開放型ではないようです。米国でプロリーグが組織されるとサッカーもeSportsも閉鎖型になっちゃうのは面白いところです。

観戦者のゲーム歴

ちなみに、私45歳男ですが、小学生低学年の頃は地元のゲーセンでインベーダーゲームやパックマンをするなど、割とゲームが身近な環境で育ったように記憶しています。初代ファミコンが登場してファミスタやゼビウス、ドラクエなどに一通りハマりましたが、中学生になって部活が忙しくなって以来、ゲームとの接点はプツリと無くなって今に至ります。少なくとも30年以上はゲームから遠ざかっていた中、いきなりeSportsの観戦となりました。

全く予備知識のない中でのeSports観戦もいかがなものかと思い、試合当日の開始3時間前くらいになってオフィスでJ嬢とWikipediaやYouTubeなどでゲームの世界観やルールなどを慌てて勉強しだすも、展開や登場人物が複雑すぎて途中で心が折れ、二人ともほとんど無知なままぶっつけ本番の観戦となりました。

Barclays Centerの様子

30分前到着を目標にするも地下鉄の遅れでBarclays Centerに着いたのは試合開始15分前でした。アリーナの外はNBAの試合前のような混雑はなく、少し拍子抜けした感じでしたが、アリーナに入場しコンコースから座席エリアに入ると、熱狂的なファンで既に会場が埋め尽くされており、その熱気に圧倒されました。「なんじゃこりゃ」という感じです。

バスケ時に約1万8000名を収容するBarclays Centerですが、eSportsの場合はコンサート仕様と同様に一方にステージを設営するため、使えなくなるステージ裏の席と、フロアに追加設置される仮設席を相殺してキャパは約1万7000席程度のようです。フロアと1階席はほぼ埋まっており、2階席は半分くらいの入りだったので、全体で1万人ちょっとの動員だったような印象です。

ちなみに、チケットは全席自由で(フロア席だけ違うカテゴリだったと思いますが、1階と2階は行き来自由)、早い者勝ちです。3週間前に購入しようとした時には既に売り切れていたため、StubHubで1枚80ドルちょっとで購入しました。

ゲーム展開

ゲームは5つの異なるステージを攻守交替で行う形でした。1ステージ20~30分程度かかり、各ステージの間には5分くらいインターミッションが入ります。こう説明すると、野球に似ていなくもないですね。

試合開始前にはチーム紹介があり(そういえば国家斉唱はありませんでした)、MCが居て1試合を通して会場を盛り上げます。MCとは別にDJもいて、ステージ間のインターバルなどはクラブのような感じでイケイケの曲をかけて雰囲気をヒートアップさせます。Tシャツトスなんかもやってました。この辺はNBAをもう少し賑やかにしたような感じです。

試合の模様はTwitchでも無料で生中継されており、25万人前後のアクセスが確認できました。ちなみに、翌日の決勝戦第2戦はESPNで生中継されてました。これをESPNが生でオンエアしちゃうのかと、ちょっと衝撃でした。

通常のスポーツ観戦・興行との違い

1)ゲーム経験者と未経験者の間の断絶

OWLを実際に観戦してみて痛感したのは、ゲームをやったことがないと全く盛り上がりに着いていけない点です。これはゲームの種類によっても違いがあると思いますが、今回観戦したOverwatchに限って言えば、アリーナのビジョンにゲーム展開は大きく表示されているので場面を見逃しているわけではないのですが、それでもやはり何が起こっているか全く理解できず、残念ながら最後まで周りの熱狂に溶け込むことができませんでした。

従来的なスポーツの場合、例えば野球やサッカーをやったことがない人でも、場外ホームランやセットプレーからの華麗なゴールなどを見れば、「すげー」と感激する場面があり、プレーの感動を共有することができると思うのですが、eSportsの場合これが比較的難しいのではないかと感じました。従来的なスポーツの場合は、プレーヤーの身体性自体が観戦対象であり、そのレベルの高さに観客は魅了されるわけですが、eSportsの場合は画面の中のプレーヤー(キャラクター)の身体性そのものというよりは、それを操作するゲーマーの技が観戦対象になるので、その技がどれだけ凄いのかが分からないと盛り上がれないのです。

米国プロスポーツ業界は最近5~10年で「競技を見せる場」から「競技+アルファを楽しめる場」にそのValue Propositionを大きくシフトさせてきています。個人的に、その達成度を測るには「その競技を全く知らない人が来ても楽しめるかどうか」が一つの目安になると考えています。この尺度でeSportsを評価してみると、(Overwatchを知らない自分があまり楽しめなかったことが象徴的ですが)競技を知っている人と知らない人の間に大きな断絶があるのは、通常のスポーツ観戦との大きな違いかもしれません。

2)ゲーム会社主導の興行体制

特定のゲームタイトルをベースに大会を組織せざるを得ないのもeSportsの特徴です。今回観戦したOWLはBlizzard Entertainment社が開発したゲームを使い、MLGの協力でリーグ戦が実現しているだけですが、前述のように両社は同一オーナー会社に保有されています。つまり、こうしたスキームからどうしても特定企業の存在感を感じざるを得ず、「どうせゲーム会社のプロモーションに上手いこと乗せられてるだけでしょ?」という見方を否定できないのです。

また、テレビ中継やネット配信などでは、MCのトークやDJの盛り上げなどはあるにせよ、大部分はゲーム展開をそのままオンエアしているわけですが、当然ゲーム自体の知的財産権はゲーム会社に帰属しています。OWLのように、タイトルゲームの開発元とリーグ戦の興行主が同一であれば問題ないですが、これが異なる場合に、試合中継やその周辺コンテンツ(Pregame、Aftergame、応援番組などのコンテンツ)の放映権は誰が保有するのかは、まだグレーゾーンなのではないでしょうか?韓国などでは、訴訟も起こっているようです。

想定されるKSF

eSportsを大きな市場に育てていこうと考えた場合、前述のように「ゲーム経験者と未経験者の間に大きな断絶がある」ことが大きなハードルになるように思えます。

断絶を超える方向性としては、「ゲーム経験者を増やす」か、「ゲーム未経験者からも共感の得られやすい(見て分かりやすい)ゲームタイトルを選ぶ、あるいは会場全体としてそのような訴求価値を目指す」、の2つが大きくありそうです。前者は正論ですが(アメフト市場を拡大するには、アメフトのルール理解者を増やすべきだ、という主張に似ています)、これはマイナースポーツが陥りやすい罠で、実はなかなかすぐに成果が出にくい部分です。特にeSportsの場合は特定のゲーム会社の利害に直結するところも、単純に「ゲーム経験者を増やそう」という主張が響きにくいところではあるでしょう。

まあ、両方やって行くんでしょうけど、個人的には後者のアプローチに力を入れるべきかなと感じます。

ゲームを知らない人にも楽しんでもらえるには、前提条件として良いアリーナがあるのは必須でしょう。正直、ゲームを見せるだけだと間が持たないので、音楽や映像などで盛り上げないと単調になってしまいそうです(アリーナスポーツとの相性は抜群ですので、NBA球団が躍起になってeSportsチームの買収に走る気持ちは良く分かります)。

もう1つは、言葉の問題も市場を定義する上では大きな壁になり得ると思います。eSportsの場合、オンラインで予選や大会を開催することもできてしまうので、それを良く捉えれば国境などにとらわれずにボーダレスに興行することが可能です。ただ、(個人的には勉強不足で一般的な興行形態をよく知らないのですが)、例えば日本の大会を日本語で行うとした瞬間に世界(英語)のeSportsマーケットから取り残されてしまうような状況になり得るのではないかなとも思います。

今回、Barclays CenterでOWLを見た印象では、英語圏ではそれなりの市場やエコシステムが既に存在しているように見えるので、ゲーム経験者のみを前提としたマーケットだけでクリティカルマスが取れて事業として成立してしまうかもしれないものの、日本語だけだと十分な市場を確保できないという事態に直面するかもしれない、少なくとも英語圏に根付いた事業よりは不利だろうなと言う印象を受けます。

これは、ある意味今日本のサッカー界が直面している課題と共通するかもしれませんが、ヨーロッパのようにコアサポーターだけをターゲットにして毎試合6万人の観客が集まるほど市場が大きければ(成熟していれば)問題にはならないのですが、そうならない場合に、サッカー先進国のファン開拓はあまり日本の参考にならないのです。

こう考えると、日本を軸に日本語で事業展開する場合は、よりゲーム未経験者(カジュアルファン)からも共感を得られやすい日本独自の環境を整備しないとビジネスとしては苦しくなるかもしれません。

あと、細かいところですけど、今回優勝したLondon Spitfireのプレーヤー(ゲーマー)はほとんどが韓国人だったんですけど、試合中のプレーヤーの音声をステージ間のインターバルでオンエアするなど盛り上げる努力はしていたものの、そもそも会話が韓国語で、通訳や字幕が付くわけでもなく、「おー、何か真剣に声かけあってやってるな」とは思うものの、何を言っているのかサッパリ分からず、とても残念な感じだったので、こうしたところの多言語対応などもあれば良いなと感じました。

以上、初観戦記として書いてみましたが、ぼとんどeSports初心者でまだまだ勉強中ですので、的外れなことを言っていたらご指摘頂けますと有難いです。


編集部より:この記事は、ニューヨーク在住のスポーツマーケティングコンサルタント、鈴木友也氏のブログ「スポーツビジネス from NY」2018年7月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はスポーツビジネス from NYをご覧ください。