第21回サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会は既に歴史となったが、決勝戦でフランスに敗北したクロアチアが注目されてきた。具体的には、クロアチアに旅する人々が増えてきたという。
クロアチアといっても、欧州地域以外の人々にとって余り馴染みがないだろう。クロアチアの首都は「ザクレブ」と即答できる人は、学校で地理が好きだった人だろう。それがW杯ロシア大会後、変わってきたのだ。
韓国聯合ニュースによると、クロアチアに旅行する国民が増えてきたという。韓国国民の反応は流石早い。欧州でも今年の夏季休暇はクロアチアのアドリア海岸で過ごそう、という声がさらに増えている。
あれもこれも、クロアチア代表の健闘があったからだ。人口比で約6700万人のフランスに対し、450万人余りのバルカンの小国クロアチア代表が戦ったのだ。クロアチアは惜敗したが、世界のサッカーファンはクロアチア代表に熱い拍手を送った。それが、W杯後の“クロアチア人気”の源泉となっていることはいうまでもない。
ただし、クロアチアの知名度を上げたのはサッカー代表の活躍だけではないのだ。同国初の女性大統領の応援があったからだ。ロシア大会閉会式の表彰台の情景をもう一度思い出してほしい。
少し、読者の記憶を呼び起こす。閉会式に突然、雨が降り出した。予想外だったから誰も傘を用意していない。雨が勢いをつける。一人の関係者が素早く一本の傘をロシアのプーチン大統領の上に差し出した。
表彰台にはプーチン大統領一人だけではなかった。マクロン仏大統領とクロアチアのコリンダ・グラバル=キタロビッチ大統領の2人の大統領が立っていた。2人は、雨にも負けず、笑顔をみせて選手たちにメダルを贈呈していた。
雨は益々激しく降り出した。プーチン氏以外の2人の大統領はずぶ濡れだ。2本目の傘が届いた。マクロン氏の上で広がられた。しばらくの間、クロアチアの女性大統領は一人、雨に濡れながらそれでも笑顔を失わず、選手たちに声をかけ続けた。
後日、プーチン氏だけに傘が差し出された点を批判するメディアもあったが、大多数のメディアはクロアチアの女性大統領の献身的な行動に賛美と称賛を送った。「彼女はクロアチア代表の試合は全て観戦していた」、「彼女はロシアにはエコノミークラスで飛び、決してビジネスクラスを利用しなかった」という美談がソーシャル・ネットワークの世界で流れた。
ただし、コリンダ・グラバル=キタロビッチ大統領への称賛は長く続かなかった。クロアチアの大衆紙 は「彼女はトランス状況に陥って、大統領としての品性と威厳を失った」と大統領を批判。セルビア系メディアなどは、 彼女をアルコーリンダ(アル中コリンダ)と呼び、中傷的な呼称で報じたほどだ。
当方もコリンダ・グラバル=キタロビッチ大統領のアクションが少々大げさだとは感じたが、4年に1度開催されたサッカーW杯大会だ。それも自国チームが初めて決勝戦に進出した。ここでハイにならないような政治家は政治家を目指さないほうがいいだろう。クロアチア各地で国民は大スクリーンを見ながら応援していた。そんな時に冷静に振舞えれば、冷たい愛国心のない政治家と受け取られただろう。
彼女が普段からサッカー・ファンだったかは知らない。少なくとも、代表チームがW杯に進出が決定してからファンにならなければ、政治家は務まらない。
一方、メディアは常にアラ捜しをする。自国の大統領が異国のモスクワで大雨にあいながらも傘一本も差されずに濡れながらも敗北して意気消沈した自国選手を慰めていたのだ。やはり、称賛に値する。天はクロアチア代表チームの健闘と大統領の涙ぐましい応援に応えられた。クロアチアは今や世界の人々に知られる国となったのだ。
なお、日本とクロアチアは今年、外交関係樹立25周年を迎えた。日本からクロアチアを訪問する日本人が益々増えてくるだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年8月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。