日銀は31日の金融政策決定会合で、長短金利操作において特に長期金利のコントロールの柔軟化を図った。これにより、極端に低下してしまった日本の債券市場が息を吹き返してきた。8月2日に日本の10年債利回りは一時0.145%まで上昇してきた。日銀の金融緩和政策の柔軟化が報じられた23日の前営業日の20日に10年債利回りは0.030%となっていた。そこからは5倍近い利回り上昇となる。
日本の長期金利が上昇してきたことで、米国の長期金利にも影響を与え、米10年債利回りは一時3%台を回復してきた。ドイツや英国などの10年債利回りにも影響を与えていた。
今回の日銀による長期金利コントロールの柔軟化とは、ゼロ%程度の範囲の解釈の変更ともいえる。日銀は指し値オペによって、市場ではその範囲をマイナス0.1%からプラス0.1%程度と認識していた。その範囲をゼロ%程度との表現はそのままで、黒田総裁は「倍」と会見で語ったことからプラス0.2%あたりに拡大してきたとみている。
これにより抑え込まれていた日本の10年債利回り、つまり長期金利が息を吹き返すことになる。わずか0.1%といえどもレンジが拡がったことによって、動く余地が生じたことで、あらためてそのレンジの上限を試すことになった。
日本の10年債利回りは、日銀が巨額の国債買入や長期金利コントロールによって抑え込まれていなければ、ファンダメンタルズと呼ばれる経済実態や物価動向、海外の金利動向などによって動いていたはずである。それでは今の日本のファンダメンタルズからみて、どの水準が適正なのか。ここには需給も絡むことで不確定要因もあるが、10年債利回りが0.2%あたりに止まっていることはむしろ考えづらい。
日銀が長期金利を抑え込むことによって、我々の生活に何か恩恵はあるのであろうか。住宅ローンの固定金利が低く抑えられているといった面はあろう。また、企業の設備投資を促している面もあり、景気そのものに好影響を与えていることも考えられる。
しかし、本来あるべき金利がもらえていないという負の要因もあることも認識すべきである。国債の利回りを抑えることによって、政府は財政面ではかなり助かるが、国債の購入者にとっては金利がほとんど得られない状況となっている。それどころか、中短期の国債運用となるとマイナス利回りとなっている。これにより債券での資金運用などにも支障をきたし、銀行などの金融機関にとっては収益が悪化し、これは景気にとってはマイナス要因ともなりうる。
今回の長期金利コントロールの柔軟化等によって、日銀の異次元緩和による累積的な副作用とされる債券市場の機能低下や金融機関の収益悪化に対して、多少なり改善される可能性はある。しかし、マイナス金利政策を含めた現在の政策の枠組みを本格修正しない限り、その改善には限界がある。
そもそも何故、このような非常時対応ともいえる政策を日銀が行ったのかといえば、2%という物価目標を達成するためである。しかし、2%という物価目標が達成されれば、我々の生活は果たして良くなるのか。むろん物価の上昇以上に賃金の上昇が金融緩和によって可能となるというのであれば話は違う。しかし、日銀の異次元緩和によって物価だけでなく賃金もそれほど上昇してこなかった。この5年間、我々が本来得られたはずの金利を犠牲にして果たして、どのような効果が得られたというのであろうか。
少なくとも今回の日銀の政策の微調整による長期金利の若干の上昇によって、我々の生活に大きなダメージを与えることは考えづらい。むしろ金利水準が本来あるべき水準に多少なり戻ることは歓迎すべきプラス効果となろう。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年8月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。