夏は暑いものだ、と考えてきたが、最近の暑さはやはり少々異常だ。アルプスの小国オーストリアも例外ではない。既に40度の壁は超えてしまった。6日現在、ウィーン市内では連続14日間、夜の気温が20度を下回ることがない。同国中央気象・地球深部ダイナミクス(ZAMG)によれば、今週中に1994年の17日間連続の熱帯夜の記録を破るのはほぼ間違いないという。
当方がオーストリアに初めて住んだ1980年、「1年で半分以上は冬だから、しっかりとしたマンテル(外套)を買ったらいいよ」と友人が助言してくれた。そこで少し高価だったが、かなり立派なマンテルを買った。実際、その後、リンツでマイナス27度という冬を経験した。雪は冬になれば当然のように降ってきた。友人のアドバイスは間違いではなかった。
しかしここ5、6年、ウィーンでは冬でも雪がほとんど降らなくなった。マンテルを出して着る必要がない冬が続いている。それだけで少々異常だ。アルプスの小国に何が生じたのだろうか。
欧州の都市で蛇口から水を飲める数少ないメトロポール(大都市)だったが、その水も昔のようではない。ミネラルウオーターを買う必要がなかったウィーン子もスーパーでミネラルウオーターを買う人が増えてきた。そこまではまだいい。人は環境の変化に過敏に反応しているだけだろう。
今年は5月に真夏の暑さ、30度を超える日々が続いた。6月後半に一時的に気温は下がった。夏は終わったのかと考えていたら、7月に入り再度、真夏が戻ってきた。それだけではない、40年間余り、当方はオーストリアに住んできたが、これほど暑い夏を体験したことがない。6日でも36度前後だ。8日は38度まで上がるという。
今年の暑さは異常を越して、少々不気味さを感じる。アルプスのオーストリアの気温が完全に変わったのだ。地球温暖化という話は聞いてきたが、他人事のように受け取ってきた面が否定できない。地球はわずかな期間で2、3度暖かくなってきたという。アルプスの氷河は既に溶け始めている。ウィーンの森のブドウ畑では1カ月も早く実が熟してしまったという。
欧州でも山火事が頻繁に発生。スウェーデンやギリシャで山火事が起きたが、ポルトガルで3日、45・2度を記録し、欧州最高気温(1977年ギリシャ・アテネ48度)を更新する可能性さえ出てきたばかりだ。
もはや暑さ対策のために「幽霊の話」をしても効果は期待できない。「真昼に外に用事がある人は近くに教会を見つけ、しばらく休憩されたらいい。教会内は外気より約10度低く、ひんやりとしている」と紹介したことがある。しかし、今年の夏はそんな生半端な対策では不十分だ。「幽霊の話」でも「教会での避暑」でも役に立たない(「猛暑を少し和らげる『幽霊の話』」2018年7月24日参考)。
日本の場合、どの家にもクーラーはあるし、会社や電車の中でもクーラーが動いているから、そこにいる限りまだどうにか過ごせる。問題は外出する時だ。
一方、オーストリアでは冬対策での経験はあるが、夏対策では遅れている。クーラーを設置している電車もあるが、まだ数少ない。普通の住居はクーラーなど設置していない。せいぜい、扇風機があるだけだ。35度を超える暑さでは扇風機も熱風をまき散らしているような感じだ。例えば、当方宅には一台の小型扇風機があるだけだ。日本からわが家に来られたら、日本より暑い夏を体験できるかもしれない。
最後に、今朝考えていたことを話す。クーラーを24時間、使用すればその電気代はバカにならない。国民が皆、24時間クーラーをつけた場合の電気量はどれだけか。そのエネルギーをどこから得るか、などと考えるとやはり少々心細くなる。
脱原発の人には、原発がなければ、代替エネルギーがまだ十分でない日本の場合、今年のような夏をどのように過ごすことができるかを聞きたい。クーラーを切って、汗を流しながら原発の安全問題、地球温暖化対策などについて、脱原発派と原発推進派から率直な考えを聞きたい。
人間は必死になればこれまで考えられなかったような知恵が飛び出すものだ。「2018年7、8月の異常な灼熱の夏」を、日本の将来のエネルギー対策について現実的な議論をする絶好の機会として生かしてほしい。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年8月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。