米国心臓外科医のお財布事情(後編)ミリオネアになりたい!

北原 大翔

年俸3000万円のオファーも

前回に引き続き米国心臓外科医のお金にまつわる話です。

米国心臓外科医の平均年収は5000万円と言いましたが、これはもちろん数年間スタッフとして働いている人たちのもので、新人、いわゆるフェロー(トレイニー)を終えたばかりの人は少し異なります。詳しい相場はわかりませんが、新人スタッフとして雇われる場合、大学病院で1000万〜3000万円、一般病院で3000万〜5000万円くらいの金額提示があるみたいです。もちろん、病院やポジションによって異なるのでしょうけど。

しかしながら、基本フェローの時は皆600万円くらいの年収で働いているので、いずれの選択肢もものすごい給料アップとなるのは間違いありません。そんな僕も昨年ミズーリ州にあるミズーリ大学に面接に行き、スタッフポジションのオファーを奇跡的にもらうという事件がありましたが、その時のミズーリ大学からの提示額は3000万円でした。野球選手かよ、と思わず突っ込んでいました。色々と考え最終的には別にやりたいことなどもあり、そのオファーは断りましたが、自分のした選択に後悔はありません。はい、後悔していません。たぶん、後悔してないと思います。ちょっとしています。

米国における心臓外科医の平均年収5000万円というものが、果たしてそれ相応の値段なのかはよく分かりません。心臓外科という特殊な領域で働く技術、あるいはさまざまなリスクを考慮してそういった給料が与えられているのだとは思いますが。実際に大学のスタッフに聞いてみると「この給料は決して高くはないと思う、自分の実力や知識、技術はそれだけの価値がある」というようなことを言っています。なんか、自分の実力が5000万円と同価値あるいはそれ以上である、と言い切れるなんて、野球選手みたいでかっこいいですね。

日本に比べて給料が高いのはいいことなのですが、シカゴなどの都会で生活していると物価も高いので、結局あんまり日本にいるのと生活水準的には変わらなくなるという説があります。僕の先輩で、アメリカでスタッフ外科医として働く先生が「都心部を除く東京の年収1000万円と、フィラデルフィアの2000万円、ニューヨーク・マンハッタンの4000万円はほぼ同程度の生活水準になる」という、今までの夢のような話をきれいに打ち砕く非常に現実的な話をされていました。

確かにそうなのかもしれません。僕が住んでいるマンションが大学の近くのもので家賃が月20万円くらい。僕は独身なのでそれだけですみますが、子供がいる人は養育費、車がある人は駐車場代、など色々とかかるみたいです。給料なしで、家族で留学に来る人などもごくまれにいるみたいですが、おそろしいほどの貯金額を保有している人か、すごい資産家の息子、娘なのだと思います。

外食すると最低でも10ドルはかかります。マックのビッグマックセットが900円くらいですね。ちなみに米国でもビッグマックの大きさは一緒ですけどね。以前日本からシカゴに遊びに来た人を歓迎していた時に、「ビッグマックはアメリカの方が大きいよね」という話で少し盛り上がっていました。マック好きの僕は世界どの国を訪れた際にもマックを食べるのですが、基本的にビッグマックのサイズが変わっている印象はなく、アメリカが日本に比べて大きいなんてあり得ないと思っています。

「違うサイズのパンを作るのはコスト面から考えても非常に非合理的だと思います」と言っても、「アメリカの方が大きいよー 笑笑」と面白い方に話を展開し、サイエンティフィックな真実を見ようとはしてくれませんでした。ちなみにアメリカではもちろんマックなどと略しては言わず「マクドーナルド」となんかえらいかっこいい発音で言わなくてはいけません。そしてほぼ通じません。そのため、100歩譲って略すとなると、どちらかというとマックよりマクドの方が近く、関西の人の方がアメリカ寄りであるということになります。そして関西出身の心臓外科医の人は実際にアメリカに多いです。

いつの間にか、お金の話がマックの話、引いては関東心臓外科vs関西心臓外科の話になっていました。まとめです。僕が思う米国心臓外科医的なお金の話とは

  • 米国心臓外科の給料は医師の中で最も高い
  • ミリオネアになりたい
  • 生活費も高いので、5000万円稼いでいても実際の生活水準はそんなに高くない

みたいな感じです。

追伸

最近シカゴ大学では、夜間病院に泊まり込んで患者をみてくれているナイトPA(フィジシャンアシスタント)が一斉にやめてしまったため、普段ナイトシフトに入らない人たちでその時間の仕事を回すことになっています。1時間当たり75ドル、夜6時から朝6時まで12時間なのですが、夜、病院に泊まることなんて誰もやりたくないので毎日担当の人から「誰かやる人いませんか」の募集メールが届きます。

もちろん誰もやりたくないので最初は無視されているのですが、3時くらいの段階で「1時間125ドルに増やします」というメールが届きます。すると、さっきまで全く反応しなかった人たちが「125ドルならやるぜ!助け合いが大事だよな!」といった感じですっと返事をして、わりとあっさりと決まります。スーパーの閉店間際、お惣菜の値段が下がった瞬間にレジに駆け込む感じに似ています。非常に現金だな、と思ってみています。


編集部より:この記事は、シカゴ大学心臓胸部外科医・北原大翔氏の医療情報サイト『m3.com』での連載コラム 2018年7月22日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた北原氏、m3.com編集部に感謝いたします。