ドイツ政府は欧州連合(EU)域外の企業がドイツ企業に投資する場合、これまでは出資比率が25%に達した場合、政府が介入できる規制を実施してきたが、その出資比率を15%を超える場合に政府が介入できるように、規制を更に強化する方向で草案作りに入っているという。ドイツ日刊紙ヴェルトが今月7日報じた。ズバリ、中国企業のドイツ企業買収を阻止する対策だ。
ドイツでは2016年、中国の「美的集団」がアウグスブルクで1898年に創設された産業用ロボットメーカー、クーカ社(Kuka)を買収して話題を呼んだ。それ以降、ドイツ政府は昨年、EU域外企業のドイツ企業への出資比率を25%としたが、今回はさらに規制を強化することになる。ペーター・アルトマイヤ経済相は今年4月26日、出資比率の引き下げを既に示唆していた。
ドイツ政府はそれだけ中国企業の活動を恐れ出してきたわけだ。ヴェルト紙によると、アルトマイヤ経済相は、防衛関連企業や重要なインフラ、ITセキュリティーなど市民の安全に関わる技術への投資については、将来をしっかりと見極める必要があると警告を発している。ズバリ、中国企業のスパイ活動だ。ドイツの先端科学技術を企業の買収を通じて習得するやり方だ。
中国企業の欧州市場進出への懸念はドイツだけではない。例えば、スイスでも同様の懸念が聞かれだした。スイス・インフォ(14日)によると、ドリス・ロイトハルト通信相は、スイス紙(13日)とのインタビューで、中国企業がスイスの「戦略的に敏感な」企業を買収する可能性について懸念を表明し、「ドイツが行ったように、我々も中国企業による企業買い漁りの対応策を議論しなければならない」と強調し、「スイスにとって戦略的に重要な企業の場合は、スイス競争委員会はそれぞれのケースを検討し、また所有権の大部分をスイスが所有すべきだ」と述べている。ちなみに、2016年には中国化工集団(Chem China)が農薬大手シンジェンタを433億ドル(436億スイスフラン)で買収している。
ドイツのシンクタンク、メルカートア中国問題研究所とベルリンのグローバル・パブリック政策研究所(GPPi)は今年1月5日、欧州での中国の影響に関する最新報告書を発表したが、その中で「欧州でのロシアの影響はフェイクニュース止まりだが、中国の場合、急速に発展する国民経済を背景に欧州政治の意思決定機関に直接食い込んできた」と指摘し、「中国は欧州の戸を叩くだけではなく、既に入り、EUの政策決定を操作してきた」と警告を発している(「中国の覇権が欧州まで及んできた」2018年2月5日参考)。
海外の中国メディア「大紀元」(8月19日)は米セキュリティ会社サイバーセキュリティ会社ファイア・アイ(Fire Eye)の報告を報じ、「中国共産党政府は世界規模の経済圏構想「一帯一路」を利用して、スパイ活動を拡大させている。諜報はプロジェクト建設地域のみならず、海外現地の中国の電子商取引プラットフォームや孔子学院を通じて、情報収集や世論操作が行われている」と指摘している(「米大学で『孔子学院』閉鎖の動き」2018年4月13日参考)。
ジグマ―ル・ガブリエル氏(当時外相)は2月17日、独南部バイエルン州のミュンヘンで開催された安全保障会議(MSC)で中国の習近平国家主席が推進する「一帯一路」(One Belt, One Road)構想に言及し、「民主主義、自由の精神とは一致しない。西側諸国はそれに代わる選択肢を構築する必要がある」と述べ、「新シルクロードはマルコポーロの感傷的な思いではなく、中国の国益に奉仕する包括的なシステム開発に寄与するものだ。もはや、単なる経済的エリアの問題ではない。欧米の価値体系、社会モデルと対抗する包括的システムを構築してきている。そのシステムは自由、民主主義、人権を土台とはしていない」と明確に指摘している(「独外相、中国の『一帯一路』を批判」2018年3月4日参考)。
習主席は昨年秋の共産党大会で権力基盤を一層強化し、シルクロード経済圏構想「一帯一路」などで覇権主義的な動きを強めてきたが、ここにきて反習近平派の巻き返しを受け、党内の権力基盤が揺れ出しているという情報が流れてくる。中国共産党独裁政権が推進する経済活動に対して警戒を緩めてはならない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年8月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。