地方創生は「地方はそうせい」~石破ビジョンで思う --- 鈴木 光一

寄稿

自民党総裁選を戦う石破氏が、その政策の柱とする石破ビジョンで地方創生を前面に掲げた。政策の継続性の観点から歓迎だ。初代担当相として地方創生を世に送り出した石破氏であるから、ここまで3年間の実績を正しく自己評価し、政治家として結果を出すための具体的施策を考え尽くしたうえでのことと期待したいが、当時、北海道の一地方都市にいて地方創生なるボールを受け取った一人としては、簡単にそうは思えない。

石破氏Facebookより:編集部

2015年に地方自治体に投げ込まれたボールは、自治体ごとに「人口ビジョン」と「まち・ひと・しごと総合戦略」を作成せよ、そのためにコンサルを起用する費用として1千万円を交付する、というものであった。作成された総合戦略の内容と進捗に応じて交付税が付与される、という含みがあるので、このテーマで作文に走らない自治体はない。ということで、全国の市町村が一斉にコンサル探しに動きだし、一社が複数の自治体の仕事を同時に引き受けるというケースも多々見られた。

地方自治体は、地理的特性や成り立ちが異なり、それぞれに抱えている問題と取り組む優先順位も異なる。それらに同一のテーマを与え、おまけに先行事例としていくつかの自治体の作成したものを見せて目標を作れというのである。これは、地方に「そうしろ(そうせい)」というのに等しく、入り口のやり方として大いに疑問を感じた。使途を限定して補助金をぶらさげ、市町村を十把一絡げに誘導してきた、従来の霞が関のやり方と変わらないのではないかと思ったのである。

人口減少により地方自治体が消滅すると警告した増田レポートが背景となって、地方創生が政策の舞台に上がってきた。だから、1700を超える市町村の中でも地方創生が政策の目的としたのは、顕著な人口減少に悩む市町村であったはずだ。それらの地方自治体のほとんどは、人口減少による税収減と公共施設の老朽化による財政の逼迫という問題を抱えている。そして、財政に重くのしかかっている老朽化した公共施設は補助金が誘導してきた、いわゆるハコモノ行政のもたらした帰結である。

たとえば北海道内の隣接する5市5町、人口11万人の地域に九つの公営温泉施設がある。過去に補助金によって各市町村でほぼ同時期に造られたもので、それら施設が例外なく、人口減少による入浴料収入の落ち込みと老朽化した設備の維持費用で、財政上の重荷となっている。

このような例は市町村営のリゾート施設など、他にもたくさん転がっている。こうした補助金行政が地方にもたらしたハコモノは、地方自治体のフローとしての一般会計を圧迫するだけではなく、市町村の存続そのものを危うくする隠れ債務となっている。地方自治体には貸借対照表がない。ましてや減損会計の発想はない。人口減少に悩む地方自治体が減損会計を取り入れた貸借対照表を作るとすれば、ほとんどの自治体が債務超過に陥るだろう。

かつて〇〇開発公社と称する三セクを設立して造成した宅地や工業団地が売れ残り、塩漬けになっている例は珍しくない。こうした物件は造成時の簿価のままで計上されているため、売ると赤字が出て三セクが破綻し、自治体の保証債務がリアライズしてしまう。また、解体する費用が出せないため、老朽化して使えなくなったハコモノを放置する。これらはみな、自治体が抱えている隠れ債務である。

このように債務超過にある地方自治体に対して、ちょっと気の利いた言葉を並べたテーマで作文をさせるのは、民間でいえば、債務超過で事業継続が危ぶまれる企業に対し、抜本的な再建策を論じることなく、できそうなことで何か事業計画をだせと言っているようなものである。

初代担当相であり首相となって真の地方創生を進めるという石破氏は、地方のこうした現実を変える具体的な解決策を持っているのであろうか。3年前の入口からは、それは見えない。石破氏の具体的政策と結果をコミットする議論をぜひ聞いてみたい。

鈴木 光一(すずき こういち) 元地方自治体副市長
三井物産で国内外の投融資プロジェクトを手掛ける。退職後、民間人校長(高校)、NGO事務局長を経て公募で地方自治体の副市長に就任。28年3月に任期満了で退任。ボクシングと登山が趣味の前期高齢者。