日銀は7月31日の金融政策決定会合で「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」を決定した。タイトルは一見すると、さらなる緩和策に踏み込んだように見えなくもない。政策金利のフォワードガイダンスも導入した。
31日の債券市場ではこれを受けて、先物主体にショートカバーの動きを強め、債券先物は150円80銭まで上昇し、引けは25銭高の150円69銭となった。10年債利回りも0.090%から0.045%に低下した。
日銀が金融政策の柔軟化を検討していることが、7月20日の夜11時頃に時事通信やロイターが報じ、債券市場はこれを受けて臨戦態勢に入っていた。30日に10年債利回りは後場に入り10年債利回りが0.110%に上昇。これに対し日銀は指し値オペをオファー。このときの応札額・落札額は1兆6403億円もあった。
31日の債券相場の反発はこのショートカバーとの見方もあったが、それよりも債券先物にHFTと呼ばれるAIなどを使った仕掛け的な買いが入った可能性が高い。AIが勘違いして追加緩和のように解釈したのであろう。
8月1日には31日の日銀の調整はやはり柔軟化であろうとの認識も強まり、あらためて10年債利回りの上限を試すような動きとなった。10年債利回りは0.120%に上昇した。また、日銀の国債補完供給(国債売現先)の状況などからみて、30日の指し値オペ1.6兆円はその多くは空売り(ショート)とみられた。
このため2日の10年国債入札は大きなショートカバーも入ったはずであったが、入札結果そのものはやや低調となった。このため10年債利回りは0.145%まで上昇。14時に日銀は指し値オペではなく、通じよう形式の臨時の国債買入をオファーしてきた。これは長期金利の上昇ピッチの速さに対応したとみられるが、結局、この日につけた10年債利回りの0.145%が直近で最高値となった。市場では日銀はこの水準で上昇を止めたいのではとの見方も出ていたが、あくまで少しブレーキを掛けたかっただけと想われる。
その後の債券相場は値を戻す展開となり、10年債利回りは0.1%近辺でのもみあいとなっていた。債券先物は150円台を回復し、じりじりと買い戻された。この債券先物の買い戻しの要因としては、米国債の利回りが低下していたことが要因としては大きかった。
米中貿易摩擦の拡大懸念やトルコリラの下落により、リスク回避の動きが起きており、それによって米国債が買い進まれ、円債もジリ高基調となっていた。13日に日本の10年債利回りは0.1%を割り込み、17日には0.085%まで低下した。
債券市場の商いは次第に低迷し、27日の債券先物の日中値幅は3銭と6月28日以来の過去最低値幅となった。日銀は7月31日の金融政策決定会合で長期金利の操作目標を拡大させたものの、結局、それ以前の動かない相場に戻ってしまった格好となった。
日銀の柔軟化に対しての債券の反応は一時的なものとなっていた。今後は円債に売り材料が出た際にあらためて日銀の長期金利のレンジを探ることも予想されるものの、当面は膠着感を強めることが予想される。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年9月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。