安楽死の制度化を提案する②社会保障抑制分の還付契約 --- 村川 浩志

寄稿

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ここで一つ発生する問題が税負担の公平性確保の問題である。これは政治の機能のまさに本質的なところだ。介護期間がある・ないでは、社会保障費の給付額に相当な差がある。

初めから介護期間に入った頃に安楽死するつもりの人にとっては、「自分は介護をほとんど受けないのに、何で他人の介護期間費用のために高い税金を払って生活費を切り詰めた人生を送らないといけないんだ」ということになる。この不公平が原因で、世界的に見ても安楽死する人がごく少数派のままなのではないだろうか。

そして、安楽死制度を作ったところで大した効果はないとされているのだろう。社会に負担を掛けない側が不利を被る仕組みというのは非常にまずい。そもそも、日本は国民の7割方が安楽死制度を望んでいるにもかかわらず、その社会に負担を掛けない選択肢自体を設けていないのだから、余計にまずいのである。

しかし、ある意味、サステイナブルな社会保障システムを構築して世界をリードするチャンスでもあるわけだ。そこで、この安楽死制度を作ったときに生じる税負担の不公平を解消するために、還付金制度を設ける。いわば「将来の介護期間費用を先払いしないハッピーライフ」という、人生設計の新たな選択肢である。

まず、還付金の額を考えてみる。平均寿命と平均健康寿命の差は2013年時点で男性9年、女性12年となっている。また、認知症の介護期間は平均6〜7年と言われている。仮に介護期間を10年とすると、その間の平均的な厚生年金の受給額は1,800万円ほどとなる。1,800万円を30年間の分割払いにすると、ちょうど月5万円となる。もちろん、この他の抑制分として医療・介護費や生活保護、逆に、介護期間に払う税金や財政赤字なども考慮しなければならない。

また、介護期間の設定値や職業・年収によって大きく変わってくるのだが、例えば、平均的収入のサラリーマンが介護期間が始まった頃に安楽死するならば、月5万円程度の還付は期待できそうだ。保険商品についても、相応額の還付や保険料の引き下げを保険会社に義務付けるべきだろう。

要介護認定のような感じのステージを作って、それぞれ推定平均余命、社会保障費抑制額、還付可能金額を算出し、対応表のようなものを作って、安楽死する時期を選択できるようにするのが良いと思われる。厚生年金の有無や年収によってますます格差が拡大することになるので、何らかの格差是正措置を行ったほうが良いかもしれない。

※安楽死による社会保障費抑制分還付契約締結書面のイメージ

この契約を締結することで、契約者は分割払いで所定の還付金を受け取る権利を得ることができます。安楽死の時点で還付金の支給は打ち切りとなります。他方で、契約者は選択したステージになるまでに安楽死する義務、および、ステージ認定の審査を受ける義務を負います。選択したステージに該当すると認定された時点で本人が安楽死の意思表示をしない場合は、契約不履行により拘束され、安楽死措置が取られます。

医学の進歩などによって著しく公平性が損なわれるような場合には、社会保障費抑制分が同水準になるようにステージの内容が適度に変更されることがあります。その場合は、還付金の差額を精算することでステージを変更することも可能です。契約を途中で解除するには、還付金を解除料付きで返納することが必要です。介護期間に入ってから契約を解除することはできません。

世の中、介護で家族に迷惑を掛けるのが嫌でピンピンコロリを望むという人は非常に多いと言われている。誰だって毎月5万円でももらえればありがたいはずなので、これによって介護期間での安楽死を希望する人は相当な数になるのではないだろうか。経済的・社会的な観点から言うと、ピンピンしなくなった時点で安楽死でコロリと逝ってくれる人が増えれば増えるほど合理化が進むわけである。

また、しっかりと「契約」にすることで、「実際になってみると、まだ死にたくないから結局は安楽死はしない」「何となく思い切りがつかない」というようなケースをなくし、確実に安楽死してもらうことができる。安楽死が「義務」となっていたほうが思い切りもつきやすいし、「自分が安楽死を望んで契約したのだから」「還付金をもらって、その分良い暮らしをしてきたのだから」ということで、本人も家族も納得しやすいのではないか。

(つづく)

村川 浩志(むらかわ ひろし)ライター
大学卒業後、出版関連会社に勤務し、執筆・編集業務に携わる。政治、社会保障の分野に関心を持ち、執筆活動を行う。