ケムニッツの暴動はドイツの近未来?

独東部ザクセン州ケムニッツ市(Chemnitz)で先月26日、35歳のドイツ人男性が2人の難民(イラク出身とシリア出身)にナイフで殺害されたことが発端となって、極右過激派、ネオナチ、フーリガン(Kaotic Chemnitz)が外国人、難民・移民排斥を訴え、路上で外国人を襲撃するなど暴動を起こした。それに反対する極左グループが衝突。今月1日には18人が負傷したばかりだ。

なお、ドイツ人殺害の容疑者2人の難民は現在、拘留中だが、ザクセン州検察は4日、「3人目のイラク出身の容疑者を捜査中」であることを明らかにしている。

極右過激派の反難民、反イスラムに抗議する市民たちは今月3日、無料出演したロック歌手たちと共にコンサートを開催。主催者側の発表では、6万5000人が集まった。それに先立ち、シュタインマイアー大統領(「社会民主党」SPD出身)は自身のフェイスブックを通じてケムニッツ市の3日の無料コンサートの参加を呼びかけ、国民に極右過激派の外国人排斥、反難民に抗議するよう異例の呼びかけをした。ケムニッツ市の極右過激派のデモはドイツ全土に大きな影響を与えるまでになっている。

シュピーゲル・オンラインより:編集部

極右派は先月27日のデモでは約6000人が結集し、「メルケル退陣せよ」、「難民殺到を止めろ」と書かれたプラカードを掲げ、ヒトラーを賛美し、ビンや花火玉を極左活動グループや警察部隊に向けて投げるなどして暴れた。今月1日のデモでは極右派は約8000人、反極右派は約3000人がデモに参加、極右と反極右の両サイドはその動員力を強めている。

独週刊誌シュピーゲル最新号(9月1日号)は11頁にわたり、ザクセン州の現状を特集している。同誌によると、殺害されたドイツ人は35歳の男性Daniel H、母親はドイツ人だが、父親は旧東独時代に労働者としてドイツに定着したキューバ人だという。

Hが2人の難民に殺害されたというニュースが報じられると、「Hは2人の難民に襲撃された女性を救うために殺害された」というニュースがネット上で流れた。極右過激派は2人の難民に殺害されたドイツ人を殉教者に祭り上げ、反難民、外国人排斥のムードに火をつけようと考えたが。亡くなったH自身が外国人の血を引いているうえ、女性を救おうとしたというニュースはフェイクと判明。極右派の狙いは実現しなかった。

一方、2人の難民のうち、主犯格の22歳のイラク人は前科があり、警察当局によく知られていた。難民申請は却下され、欧州に最初に入国したブルガリアに強制送還することになっていたが、実行されなかったという。

ザクセン州は旧東独に属し、ケムニッツ市は同州3番目の都市で人口約25万人だ。同州は久しく極右過激派の拠点とみなされてきた。ネオナチ政党「ドイツ国家民主党」(NPD)は2004年から14年の間、州議会に議席を有していた。現在は「ドイツのために選択肢」(AfD)の躍進でNPDは後退。「西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者」(Pegida運動)はザクセン州のドレスデンで活動を開始。同州では過去、ハイデナウ市、ドレスデン市、そして今回のケムニッツ市で極右過激派の暴動が起きている。

興味深い点は、躍進するAfDを阻止するため左派の結集を呼び掛けた左翼統合運動「蜂起」が発足されたことだ。同運動の発足人「左翼党」サラー・ヴァーゲンクネヒト連邦議会院内総務は4日、ベルリンで新しい運動の創設理由について、「わが国の民主主義は大きな危機に直面している。今、その対応に乗り出さないと、5年から10年後、ドイツは現在の姿を失っているだろう」を主張し、「Pegidaや極右派に路上が占領される」と警告を発している。

同議員によると、8月初め現在、10万人を超えるメンバーがオンラインで登録したという。ただし、左派グループの結集は容易ではない。SPDばかりか、左翼党内からもヴァーゲンクネヒト議員のイニシアチブに既に批判の声が聞かれる。

一方、3日のケムニッツ市の反極右コンサートに対しては、メルケル首相の「キリスト教民主同盟」(CDU)から「参加したロックグループの選択が偏っている。舞台で歌ったグループは左系の歌手だけだ」(アンネグレート・クランプ=カレンバウアー幹事長)という不満の声が聞かれるなど、反極右活動においても政党間の壁を越えた連帯は容易ではないのが現実だ。既成政党の混乱を縫って、新党AfDや他の極右派勢力が勢力を伸ばしてきているわけだ。

メルケル首相は、「路上で外国人を襲撃することは法治国家として絶対に認められない」と指摘、極右、ネオナチたちの外国人襲撃を厳しく批判したが、シュピーゲル誌によると、旧東独出身のメルケル首相は東独では最も嫌われている政治家というのだ。「旧東独出身なのに、彼らの心を理解していない」と受け取られているという。メルケル首相が旧東独の州を訪問する時は反メルケル運動を警戒、首相の身辺警備が強化されるというのだ。

なお、ザクセン州のマーテイン・デュリグ経済相はシュピーゲル誌との会見の中で、「われわれの敵はAfDでなく、不安だ。それに打ち勝つためには希望と確信が必要だ」と述べたが、問題は、誰が、どの政党が、国民に希望と確信を与えることができるかだが、その答えは見つからずに終わっている。

ドイツで10月14日にバイエルン州、その2週間後の28日にはヘッセン州で州議会選が実施される。複数の世論調査によると、バイエルン州議会選では「キリスト教社会同盟」(CSU)に次いでAfDが第2党に進出する勢いを見せている。ザクセン州でも来年、州議会選が行われるが、AfDの躍進は確実視されている。東西両ドイツで反難民、外国人排斥を標榜するAfDが大きな台風の目となってきているのだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年9月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。