銀行はないほうがいい

企業経営にとって、在庫の保有や、資金決済の時間的ずれは、避けることのできないものだから、そのための資金、即ち、運転資金の調達は極めて重要であって、銀行借入の目的としても、大きな比重を占める。

企業にとって、運転資本を最小化して、経営効率をあげることが課題なのであって、銀行は、顧客の真の利益の視点にたつとき、融資額を小さくする方向に業務改善等の経営支援をすべきである。そのうえで、経営効率化が次の成長戦略につながったとき、融資額の増加を期待する、これぞ融資の王道だ。

しかし、銀行の自己利益の立場からすれば、非効率な経営の改善余地を放置したままでも、黒字を確保して営業されている限り、一定額の運転資本を借りて貰っていることに文句をいう必要はない。貸す側からすれば、貸す必要がないときでも、無駄に借りて貰っているほうが都合よくなるわけで、ここに、金融の矛盾があるのだ。

ところが、在庫を最小化できる物流システムができたり、代金が即日決済されるシステムができたりすれば、運転資本は、企業の経営効率化の努力を超え、また、銀行の関与と無関係に、最小化に向かうだろう。これがフィンテックと呼ばれる領域の拡大である。

銀行が顧客の利益の視点にたち、運転資金の最小化を目指してきたのなら、その先に、技術革新が起きたところで、融資業務から、在庫管理・決済にかかわる情報処理業務へと自然に転換できるはずだから、少しも、怖くないはずである。

逆に、技術革新が金融機能を不要にしていく方向に対して、銀行が危機感をもつとしたら、それは、銀行の立場から金融機能を提供していて、顧客の視点を欠いているからである。フィンテックは、顧客の利益の視点で、伝統的な金融を不要にするものとして、大きな意味があるのだ。

決済は、フィンテックの中核的な分野である。現在では、決済は、銀行預金を舞台に行われているので、金融機能になっているのだが、その原型である現金の授受をみればわかるように、本来は金融機能ではない。むしろ、金融ではなくて、商取引に不可分に結合した機能として構成したほうが合理的である。ここでは、フィンテックは、金融の高度化ではなくて、金融の解体を意味する可能性が大きいのだ。

では、決済機能を分離した後、預金に何が残るかというと、貯蓄機能しかないが、貯蓄手段としての預金は、他の資産形成手段と比較したとき、著しく魅力度に劣ることは間違いなく、劇的に縮小してしまうだろう。

銀行の負債としての預金の縮小は、その資産としての融資の縮小に並行しなければならないから、要は、銀行は不要になっていくわけである。しかし、だからといって、機能としての金融が姿を変えて進化するなら、社会的には、どうでもいいことである。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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